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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
従者の資格
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十一話

 クロムウェル城から持ってきた物は数あれど、消耗品や失った物はどうしようもない。薬草などを保管していた部屋がなくなってしまったため、新しく薬草を取りにいかなければいけない。こんなところを行商人など通るはずもない。集落で買える物ならばいいが、危険な場所に生えているものは民衆が自力では取りに行かれないようだ。つまりは自分たちで調達するしか方法がなかった。


「それにしても、アイツのネーミングセンスどうにかした方がいいと思うわ」


 山の頂点に自生する花を求めて、俺はセラと共に山登りの真っ最中。木や草などはあまり見られず、岩や土ばかりが目立つ。一応頂点に近づくにつれて緑は多くなってきてはいるが、それでも土色の存在感が大きかった。


「そこがいい所でもありますからね」


 セレスは新しい居住先をセレスティア城と命名した。迷いなく言い放ったのは美点と取れなくもない。


「というよりも、無駄話をしていて大丈夫なんですか?」

「それは体力的にって意味で言ってんのか?」

「ええ、当然」

「バカにしてるだろお前」


 これでもセラと出会う前からベネディクトさんとジュディスさんに鍛えてもらってたんだ。そう簡単にへこたれるわけがない。


 基礎体力作りから武道、武器を持つ相手を想定した立ち回り、魔法の使い方。それらは皆、クロムウェルの流派を継いでいると言っても過言じゃないはずだ。


 俺は物心ついた時からそうやって生きてきた。なのに、セラは涼しい顔でついてくる。それに対しては素直に感心しているが、妬みも少しだけあった。


 まあ、彼女には彼女なりの苦労もあったんだろうけど。


「バカになんてしてませんよ。お嬢様の一番近くにいるのはライです。そんな人をバカにするわけがありません。お嬢様は強く逞しく、器用さや繊細さも持ちあわせている。魔法に関しても、武術に関しても。それについていかれているのですから、ライは誇ってもいいと、私は思いますよ」

「そうやって人を持ち上げて、なにもやらないぞ」


 普段無表情だから、少しの微笑みでもかなりのインパクトだ。素材は非常に優秀なため、その笑顔は可愛らしい。


 年は俺よりも下だが、立ち振舞いと物腰のせいか大人びて見える。けれどその分、笑うと少し子供っぽく感じてしまうのだ。無邪気でもないし、はしゃいでいるわけでもないのに。


「なにかが欲しくて褒めるわけではありませんよ。ただ――」

「なんだよ」


 彼女の視線に、思わず鼓動が早くなった。


「定期的に褒めておかないと上手くコントロールできませんから」


 まあ、そうなるよな。一体なにを期待して胸を高鳴らせたんだか。


「やっぱバカにしてんじゃねーか! 年上舐めると後々後悔するからな!」

「少しばかり年齢に開きがあるからと、人生観や経験則などはそうそう変わりませんよ。特にまだ十代で、私たちはこれからはほぼ同じ時を一緒に歩むのです。なおのこと差異はなくなると思いませんか?」


 セレスの従者として、長期間付き添うのだから当たり前だ。少々含みのある言い方ではあるが、コイツも従者であり続けることを望んでいるということだ。


「それにしても、例の花はまだなのか」

「頂上だと説明したじゃありませんか。それともやっぱり疲れたんですね」

「多少は疲れるに決まってんだろ。それに帰るための労力だって必要だし」


 空中の魔導力を吸収して時を刻む魔法式腕時計を見れば、山を登り始めて二時間は経過していた。疲労とかそういうのもあるが、俺たちは帰ってもやることがある。数日後に控えた魔王討伐遠征のために修練をしなければならない。これ以上時間がかかったら、体力的にも時間的にも帰って寝るだけになってしまう。


「貴方は今の状況をどう思いますか?」


 ふと、前を歩くセラがそんなことを言った。


「今の状況ってのはセレスのことか?」

「お嬢様を含めた、魔王セレスティアとその従者たちのことです。アーサーとの戦いも大切ですが、勝ったとしてもお嬢様が魔王としてやっていくことは困難ではないかと」


 もっともな意見だ。俺も同じことを考え、それが他人の口から出るということはより現実味を帯びてくる。


 一筋の汗が頬を伝って地面に落ちた。シャツも湿り気を帯びて張り付くし、髪の毛だって額と仲良しだ。


「なんか、蒸し暑すぎないか?」


 気がつけば、徐々に霧が出始めている。太陽は高く登り、気温は上昇し始めていた。


「確かに、普段は日陰者のような生活を送っていますからね。こういう熱気というか、湿気には耐性がありません」


 俺は男だからまだいいけど、女性な上にドレスを着ているセラはたまったもんじゃないだろう。


 やがて、ポツポツと雨が振ってきた。空を見上げるが、太陽が少しずつ雲に覆われていくのが見えた。


「やべーなこりゃ。どっかで雨宿りとかできないか?」

「もう少し行けば、山の壁面が繰り抜かれている場所があります。おそらくは、だいぶ前に魔物が住処として使っ――」


 小さな身体を抱きかかえて走りだした。足場が悪いので勢いよくとはいかないが、できるだけ足を早く動かした。


 セラは一度説明をし始めると長くなるきらいがある。勢いを増していく雨の下で、長々と説明を聞いてるわけにはいかない。


「ちょ、ちょっと!」

「このまま道なりでいいのか?」


 山の壁面を伝うように、細い道が続いている。ほかに寄り道をしようとしても無理だ。


「真っ直ぐで大丈夫ですが、なぜこのようなことを」

「いいから黙ってろ。こっちのほうが早い」


 平地ならば問題ないんだろうが、こう足場が悪いとドレスはキツそうに見えた。

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