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伝説の傭兵団  作者: メガネ右
一章《初仕事》
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《初仕事》7話

 ーー気づくと少年は熊と少女の間に立っていた。



 眼前には先ほどの熊より大きく素早い熊、恐らく先ほどの熊より強いだろう。



 ーー少年は怒りに我をとらわれそうになった。



 ーー考えなくては、少年はそう思った。



 ーー考え、考えて少女とともに生きる方法を見つけるのだ、と。



 ーーまず少年は少女の傷をどうにかしなければならないと思った。



 ーー彼は今取るべき最善の行動は何か、と考える。



 「【加護(ライトヒール)】」



 そう呟きながら少年が少女に手をかざすと、少女の血が止まった。



 ーー少年は次に熊を倒そうと考えた。



 少年の先ほどの攻撃はほとんど通用していなかった。



 ならばと少年はさらに強力な魔法を放つため、詠唱を始めた。






 グリズリーだったものは男を見ていた。


 男は女の傷を癒した後、何かを呟き出して動かない。


 恐らく彼は何かを起こすのだろう。


 もしかすると自分は死ぬかもしれない。


 しかし、グリズリーだったものはただ少年のその行動を見ていた。


 グリズリーだったものにはある種余裕と呼べるようなものがあったのだ。


 今まで手にしたことがなかったようなチカラが。






「ーー龍よ、我が願いを聞き入れ、主たる我が意に従い全てを消し去れ」



 次の瞬間、シュウの体から膨大な光の魔力が噴出された。



 それは何かの形を成して行く。


 そして最後には龍の顔のようになった。


 「ウオオォォ【光龍撃(こうりゅうげき)】ッッ!」




 龍は一瞬にして熊を飲み込んだ。



 眩い光が熊を包んで行く。



「グオォォォッ!」



 熊の叫びが聞こえる。



 しかしそれもだんだんと小さくなっていった。



 光の龍が消えた時、そこには熊の姿はなかった。



 シュウは安堵した。

 今度こそ終わったのだ、と。

 シュウはレイナを抱きかかえ、村に戻ろうと歩き出した。


「れいな、聞こえる?」


「……ええ、大……丈夫……よ」


 聞こえてきた声に再度シュウは安心した。

 先程、シュウはレイナをこんな風にしてしまったことでの悔しさと、熊に対する怒りで心がいっぱいだったが、それも熊を消し去ったことでほとんど薄れていた。





 そんな時だった。それは突然起こった。



 シュウの後ろから突然



ーーグォォォォォォォォォォ



 また新しい熊が姿を現したのだ。



「ッ嘘だろオイ!」



 少年は一瞬驚き、その後すぐに走り出した。







「ハッハッハッ」


 シュウは森の中を走っていた。


 「くそッ油断したッ!あの時はやく逃げるべきだったんだ!」


 シュウはレイナを抱きかかえているせいで走るのがとても遅くなっているはずだが、自分の足にかけた魔法でその分を埋めていた。


「なんだってあんな熊が3体もいるんだよ!」


 村の住人は確かに何体とは言っていなかったが、シュウたちはそれを1体だと思い込んでしまっていたのだ。


 走っていると待ってましたとばかりにシュウの前方からハウンドが襲いかかってきた。


「来た時は出てこなかったのになんで出てくるんだよ! ああもう! 【光弾(ライトバレット)】!」


 シュウは愚痴を吐きすてるとともに、光の弾丸を放ち前方から迫るハウンドたちに風穴を開けた。





 ずっと走っているとついに森の終わりが見えてきた。


「ハアッハァッハアッ!」


 シュウはついに森から抜け出した。

 不思議と森を出た後は魔物たちが襲ってこなかった。


 シュウはレイナを抱えたまま村長の家に向かった。



 村長の家に近づくとジンが走ってきた。


「シュウ! レイナはどうしたんだ!」


「熊にやられました。一応傷口は塞いでます。今はただ寝てるだけですよ」


「そうか、レイナは大丈夫なんだな! よかった……」


「とりあえず入りましょう」


 シュウの提案にジンは頷き村長の家に入っていた。




 シュウは森で起こったことをジンにすべて話した。


 入ってすぐたくさんの魔物に襲われたこと、それにもかかわらずその後全く現れなくなったこと、そして熊にあったこと、それを倒したのにまた新しい熊が出て、それを倒したこと。

 そして何よりも、さらに熊がいたこと。

 そして逃げてきたこと。特に逃げてきた時はたくさんの魔物に襲われこと。


 ジンは驚いていた。それは熊の数ではない。

 全体的にだ。

 最初以外魔物に出会っていないなど、おかしい。

 魔物に出会わずに目標にたどり着けた。

 これだけならば運がよかったと言えるだろう。

 しかしシュウ曰く逃げる時は襲われたのだ。


 考えたくはないことだが、森の頂点に値する魔物が他の魔物を使役している。

 つまり、その頂点に値する魔物は強さとそれに加えて知能が高いということだ。


(まさにやっかい極まりない、だな)


 ジンは心の中で自嘲するように笑った。


「森の頂点の魔物にもし知能があるならこの仕事はシュウたちには重すぎたかもしれねえな。俺の判断ミスだ、すまない」


 ジンはシュウに頭を下げた。そして、


「シュウ、後は俺に任せろ。お前はレイナと一緒にいてやってくれ」


 と、そこに寝ていたはずのレイナの声が聞こえてきた。


「いや、私はいいから。シュウも一緒に行きなさい」


「レイナッ! 目が覚めたのか!」


 ジンは顔に花が咲いたように喜んだ。


「特に痛むところもないから大丈夫よ。それより団長、今回はシュウのための依頼でもあるんだからシュウを連れて行ってあげてください」


 レイナの声を聞き、ジンは頷き口を開いた。


「わかった。明日、俺とシュウでグリズリーの凶暴種を倒しに行く」


 それを聞いていて、シュウは思い出したように言った。


「熊は今の所確認できているのは2体は倒したからあと1体ですね」


 しかし、そのシュウの言葉に疑問を抱いた人物がいた。レイナだ。


「2体倒したの? 私が覚えてるのは1体だけなんだけど……」


「え? ほら、2人で相手をしたやつとそのあとレイナを襲ったやつだよ」


「えっと、シュウは熊が現れるところを見ていなかったの?」


「そういえば後ろを向いてて見てなかったな」


「そう……だったのね」


 レイナは頷くと、あの時彼女が見たものを話し出した。


「あの時私が熊を切ったあとも見てたんだけど、倒れた熊の周りに黒い虫みたいなのが集まってきたわ。そいつらが熊にくっついたと思ったら熊が立ち上がったの。そのあと熊が吠えてたわ」



 ジンは黒い虫と聞いてあるものを思い出した。


「……凶暴種じゃなくて魔虫か」



 魔虫とは、魔物の死体に取り付く虫のようなものだ。

 そのジンが言った魔虫という言葉に反応したのはレイナだった。


「まさかとは思ったけどやっぱりそうなのかしら……」


「あの、マチュウって何ですか?」


 シュウは2人に完全においていかれていた。

 それに答えたのはレイナだ。


「あ、シュウは魔虫を知らないのね。……魔虫っていうのは魔界にいる虫のことで、魔物の死体に取り付いて魔物を使役するのよ」


 ジンは全てが納得いったような顔をしていた。


「魔虫の奴らが原因なら魔物の行動も頷けるな」


 そう、魔虫は高い知能を持つからだ。今回の魔物の行動、特に入っていく時や、逃げる時などは魔虫が他の魔物を操ったと考えるのが妥当である。


「そうとわかればあとは熊を倒すだけだな」


 ジンはそう言って会議を終わらせた。

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