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伝説の傭兵団  作者: メガネ右
一章《初仕事》
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《初仕事》6話

 シュウの目覚めは早かった。

 今日は森の調査に行かなければならないからだ。

 外は晴れとまでは行かなかったが、曇り程度で済んでいる。

 シュウは手早く身支度を済ませ、意気揚々と外に出た。




 シュウが外に出るとレイナがすでにシュウを待っていた。

 シュウは早く起きたと思っていたのでレイナがすでに待っていたのに気付き驚いた。


「あれ? レイナ早いね」


 するとレイナは呆れたように言った。


「……あんたが遅いのよ。ずっと待ってたから起こしに行こうかと思ったじゃない」

「あはは、ごめんごめん、自分でも早く起きたかなと思ったんだけどね……」


 レイナと話している間みるみるうちに元気が無くなっていくシュウを見て不思議に思い、


「どうしたの? まさか具合が悪いとか……私ひとりでも大丈夫だからあんたは休んでてもいいわよ?」


 と、シュウに言ったのだが、それを聞いたシュウは右腕で力こぶを作りながら慌てて言った。


「いやいや! レイナ1人では行かせられないよ! この通り! 元気だから大丈夫!」


 しかしレイナはまるで興味がないかのように、


「何を慌ててるのよ。具合悪くないなら早く行くわよ」


 と言って森の方面へ歩き出した。

 力こぶを無視されたシュウは心の中で悲しく思いながらもレイナについていくのだった。






 村を出てからしばらく歩いていると、2人の視力で確認できるほどに森が近づいてきた。





 ーーその日、鈍色の空と相まって森には何か冷たくて悲しいと表現するのが何よりもあっているような、そんな空気が漂っていた。






 2人は森に着くと、調査時の陣形の確認を行った。



「レイナが右と前で僕が左と後ろを確認しながら進んでいこう」


「分かったわ。……魔物は確認次第撃破でいいのよね?」


「うん、それで大丈夫だよ」




 ーー2人が森に入って数分後


「レイナ! 後方からハウンド5体! こっちに迫ってきてる!」


 先ほどからシュウたちの後ろをハウンドがつけてきているのをシュウは察知していた。


「ちっ、厄介ね。前方に森ハウンドが6体いるわ……」


「はさみ打ちかッ! レイナ! 前は頼んだ僕は後ろをやる!」


「了解!」



 森へ入ったばかりだというのに2人はハウンドたちのはさみ打ちにあっていた。


 しかしそこに、


「シュウ! 上空からスピアビー5体がそっちに向かってる! 気をつけて!」


 さらにスピアビーまで迫ってきていた。スピアビーとは毒針が普通より大きくなった蜂の魔物だ。毒針が槍のように見えることからその名前をつけられた。



「クソっ! なんでこんなに一気に来るんだよ、もう!」



 シュウはハウンドたちを警戒しながらも後方から迫るスピアビーに向けて詠唱をせずに【光弾(ライトバレット)】の魔法を行使した。


 シュウの放った魔法は光の矢(ライトアロー)の強化版のようなもので、追尾効果がついたものだ。



 詠唱がなかったため威力が落ちると思われた光の弾丸たちだったが、彼らはそれぞれの目標をひたすら追いかけ、次々に魔物を貫いていった。




 光の弾丸に風穴を開けられた魔物たちが次々に落ちていくのをハウンドたちは視認した。

 その強さを本能的に感じ取ったのだろう。

 その威力に怯えたハウンドたちは我先にと逃げて行った。



「ハァ……スー、ハァ……行ったわね」


 シュウがスピアビーとハウンドたちを相手している間、レイナも同じ程度の魔物を相手していたのだろう。レイナの息が上がっていた。


 シュウはレイナを気遣って休憩を入れたかった。

 しかし、こんな森の中で死体を燃やすわけにもいかず、魔物の死体の匂いを嗅ぎつけてまた他の魔物が来てしまう可能性もある。

 シュウはレイナを気遣いながらも移動することを決めた。


「レイナ、きついかもしれないけど、早くここから移動しよう」


 しかしレイナもそんなことは分かっていたようで、


「……ええ、大丈夫よ。魔物が来ちゃうかもしれないしね」


 と言って歩き出した。





しばらくして先ほどの場所から十分に離れたところで2人は休憩に入った。



「なんで今日はこんなに魔物が多いのかしら……前来た時はこんなにいなかったと思うんだけど」


 シュウはレイナの呟きに疑問を抱いた。


「レイナは前に来たことがあったの?」


「ええ、私の最初の仕事もここだったのよ」


 シュウは意外に思ったが、レイナの話はまだ続いた。


「私の最初の仕事は2年前だったわ、確かあの時仕事は団長とリノさんと一緒だったかな」


 聞いているうちにシュウは前から抱いていた疑問を聞いてみることにした。


「ねえ、レイナとジンさんって親子なんだよね。なんで団長って呼んでるの?」


 しかしその質問はレイナの何かに触れてしまったようで、


「……言いたくない」


 そう言うとレイナは俯いてしまった。




 ーーしばらく沈黙が続いた。



 しかしこれでは調査が終わらないとシュウとレイナはまた歩き始めた。



 それからかなり時間が経った。最初の襲撃からまだ一度も魔物に出会っていない。

 シュウは嫌な予感しかしなかった。

 魔物に出会わないなど逆におかしいのだ。

 


 そのまま昼の休憩も終えた。

 あれから未だに魔物には遭遇していない。




 昼の休憩を終え調査をしていると、

 ふと、レイナが何かに気づいた。


「シュウ、前に何かいるわ。割と大きいわね、目標かもしれない」


「本当? ……じゃあ回り込んで2人で挟み撃ちにしよう」


 シュウの提案にレイナは頷き、2人は離れていった。




 移動しながら、シュウは“何か”を確認した。

 何かは大きな熊だった。

 ここでシュウは確信した。奴だ、と。

 あれが今回の目標だと思った。



 移動も終わり、反対側にいるレイナを確認すると、レイナも移動完了の合図を送ってきた。



 ーーそして2人は一斉に飛び出した。


 シュウは手に付与(エンチャント)を施し、レイナは刀を携えて。



 2人が飛び出してくる音を聞いて熊、いやグリズリーは2人を視認した。


 グリズリーはまず女を狙った。

 単純に接近してくるのが速かったからだ。


「グオォォォ!」


 グリズリーの大きな手が振るわれる。


 しかし、女はそれを見切り、鋭い反応でそれを避けた。



 このときグリズリーは判断を誤った。

 後ろから迫る男を無視して女を攻撃してしまったのだ。




「ハァァァア!」



 男の雄叫びと共にグリズリーの背中に強烈な衝撃が浴びせられた。


「グォォッ!」


「チッ」



 男は舌打ちをした。やはり付与(エンチャント)があっても殴るだけでは致命的な一撃にはならないからだ。


 女はそれに気付き男に向かって吠えた。



「シュウ! あいつに攻撃を続けて! 私がやる!」



 グリズリーにはその女が言ったことの意味はわからない。

 しかし、本能的に女が何かをすると思ったのだろう。

 グリズリーは女の方に向き、雄叫びをあげた。


「グォ?」


 ーー次の瞬間、グリズリーの目の前を光線のようなものがよぎった。


 グリズリーの注意は光線を発射したと思われる男に向いた。


「さあ、熊やろう! お前の相手はこっちだぜ!」


「グオオォォォ!」



 レイナはシュウと熊の戦いを黙って見ていた。

 と言っても惚けていたわけではない。

 集中していたのだ。一撃のために。そしてレイナの集中は極限まで高まった。



「シュウ! 熊から離れて!」



 グリズリーはその声を聞き、女のことを思い出した。


 気付けば目の前に男はいなくなっていた。ならばと、女の方を向くと、女は鞘に収まった刀に手をかけたまま時が止まったようにそこに立っていた。


 立っていたというよりは腰を低くし、刀を抜こうとしていると言った方が良いだろう。


 そのとき、辺りの音は全くと言っていいほど聞こえなかった。


 グリズリーは時が止まったのかとすら思った。動かず、音もしないのだ。


「グォォ……」


 哀れにもグリズリーは自分から女の方に近づいていった。


 ある程度女に近づいたとき、急に時が動き出した。音が聞こえたのだ。



 女が、

 何かを呟く音がーー




「居合ーー【壱式・一花(いっくわ)】」




 ーーグリズリーは意識を手放した。




 シュウはあっけにとられていた。時が止まったかと思うと次はグリズリーの上半身が宙を舞っていたからだ。


 レイナの切り札の一つとも言えるこの居合は相手にもわからないような速さで横一文字に切り裂くという技だ。

 常人では出せないようなはやさを出すためには筋肉に負担をかけるしかないため、使用した後は動けなくなるのだが、それを含めてもレイナの「壱式・一花」は強い。


 それを見てシュウはやっと終わったか、と長い息をはいた。しかし、



 ーーグォォォオオオォォォォオォォオオォ!



 突然の方向に驚いたシュウが後ろを向くと、



 ーーそこに先ほど倒したはずの熊はおらず、先ほどの熊よりも大きく、目が赤く光った熊がいた。



 その熊は先程の熊とは比べものにならないような速さでレイナに近づき、その手をレイナに向けて振るった。


「レイナッ!」




 ーーーーシュウの叫びも虚しく、レイナは背中から血を流して倒れた。

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