《初仕事》1話
ーー翌日
「と、いうわけでだ! シュウとレイナには今日から仕事に行ってもらう!」
と、張り切りつつジンは言った。
ーー事の発端はすこし前に戻る。
シュウは宿のベッドから起き上がり身支度を済ませ、早速酒場「ゴージャス」に来ていた。
クラスバは店主なのだからもちろんだが、リノやレイナもすでに集まっていた。しかし、肝心の団長ジンが来ていない。昨夜集まれと言っていたのはジン本人であるにも関わらず、だ。
それにはリノもお怒りらしく、
「あのクソ団長! また寝坊か!」
と、昨日のリノとは全く別人のようだったのでシュウがレイナに聞いたところ、どうやらリノは朝に弱いらしいということが分かった。
そこにちょうどジンがやってきて、
「おう! お前ら揃ってるな! よし、じゃあ会議を始めるぞ!」
と、言ったのだがやはりリノの怒りの矛先がジンに向かった。
「よ、よひ、ひゃあひょうもはいひをはひめるほ! (よ、よし、じゃあ今日も会議を始めるぞ! )」
このままでは会議が出来ない、とレイナが呟くのを聞いたリノが
「ボコボコにされたジンがまともに喋れない代わりに今日は私がやろう。まずは新人のシュウ、何か質問はあるか?」
と、淡々と進めるのだった。が、シュウはただ疑問に思ったことを聞いた。
「えっと、じゃあ、依頼のない日ってみなさんどういう風に過ごしているんですか?」
するとリノが、
「会議だ」
と、答えた。それに対してシュウは、
「えっと、つまり暇を持て余してるってことですか?」
「会議だ」
しかし、それに対するリノの答えはあまりに雑だった。その反応にシュウは顔を引きつらせ、レイナはどこか違うところを見ているような目をしていた。この空気に耐えきれなくなったシュウは、
「すいません、質問を変えます。会議っていうのはどういうものですか?」
「話し合いだ」
変えた質問にすらもリノは雑に答えた。要するに仕事がない日は1日中暇なのだ。これにはさすがにシュウも驚いた。なにせシュウが昔から憧れていたドラバルド傭兵団の実態が実は暇人集団だったのだ。それにはたとえシュウでなくとも誰でも呆れてしまうだろう。そしてシュウは言った。
「今依頼とか来てないんですか?」
するとそこに声をあげたのはクラスバだった。
「おう! 喜べお前ら! 仕事の依頼が来てるぞ! 場所はアースランドとプラダスの境辺りの村だな」
と、そこにようやく喋れるようになったジンがきた。
「あの辺りの村じゃそう強い魔物は出てこねえな!よし、決まりだ!」
と言って、冒頭の状況に至るのである。
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が、しかしレイナは不満があるようで、
「ちょっと! なんで私がこんな子供みたいなやつと一緒に行かなきゃなんないのよ! 子供のお守りなんて嫌よ!」
と、真実を言うのだが、さすがにシュウもそれには怒ったようで、
「ちょ、子供ってなんだよ! レイナだって僕と1つしか歳が変わらないじゃないか! だいたいレイナの方が身長低いんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい! ほとんど変わらないじゃないの! とにかく! 私はシュウと2人でなんか嫌よ!」
明確に拒絶を表されたシュウの心はすこし傷つくのだが、売り言葉に買い言葉でシュウの方も、
「ぼ、僕だってレイナと2人でなんか嫌だよ!」
その時レイナの目がすこし泳いだのをリノは見逃さなかった。そして、
「はいはい、じゃあ団長が付いて行くから。2人とも、それでいいでしょう?」
「おいおい俺の扱い雑じゃね?」
そんな団長の呟きを無視してレイナは、
「えー、団長? もっと嫌よ」
自分の娘からすらも冷たくあしらわれて、涙目の団長であった。
収集の付かなくなった事態でクラスバはやれやれといった様子で、
「おい、お前ら! 依頼はどうすんだ! 受けるのか? 受けねえのか?受けねえなら他のとこに回しとくぞ、全く」
と、ため息をついたクラスバに対してジンが、
「あ、行くぜ。どっちにしろシュウの実力とか知らなきゃいけねえしな」
と言った。やはり傭兵団というだけあり、仲間との連携や互いの力を知っておくのは大切なことだ。
「たしか、アースランドとプラダスの境あたりだったよな、依頼書を見せてくれ、詳しく知りたい。」
やはり団長と言うだけあって、頼れるところは頼れる。それがジンだ。今回のように公私の区別がついているのだろう。
「へぇ、討伐じゃなくて調査依頼か。なになに? アース山脈の麓の山に普段より大きい熊が出る。調査を頼みたい、か。そういやあの辺りってたしか筍がうまかったよな。へへ、よっしゃ決まりだ!筍とって熊狩って終わりだな。楽しみだぜ!」
前言撤回、区別がついていないジンを見ていたリノが、
「調査より筍かよ、全く、馬鹿じゃないの?」
と、呟いたのを幸いジンは聞いていなかったが、もし聞いていたらジンの心はまた折れそうになっていただろう。
しかし、ジンの言葉を聞いていたシュウは入団2日目ではやくもドラバルド傭兵団への憧れを失っていくのだった。
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ここでこの世界について話をしておこう。
この世界の大陸についてだ。この世界には3つの大陸がある。北にある人間族の住む大陸、西にある龍が住む「龍の地」そして東にあるのだ魔族が住む魔大陸。
特に人間族の住む地については4つの国に分かれている。まずは大陸の南にあるアース王国だ。そしてその北側にある国がストランド王国、西側がケルヴィア連合国、東側がボナパルト帝国である。
ちなみにケルヴィア連合国の西側つまり人間族の住む大陸の最も西にはケルヴィア砂漠という砂漠が広がっている。
さらにこの4国の内でもアース王国については深く触れておこう。アース王国は4つの都からなる。北側のアースランド、西側の交易の都ミラ、東側のプラダス、そして南にあるのがマロトフである。
そしてシュウたちが住むのは王都の城下町、ドラバルドである。ドラバルドは王城の南東に位置する。
ちなみに王都の北側には、アース山脈がある。アース山脈は普通、人間が越えれるような高さではない。つまり王都は西、東、南を大都市に囲まれ、北は山脈という、もっとも安全な場所にあるのだ。
そして今回シュウたちが行くのは王都と、プラダスの境の村。ちょうどアース山脈が途切れる地である。安全と危険の両方が一緒になるような地で、シュウの初仕事が始まる。