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伝説の傭兵団  作者: メガネ右
一章《初仕事》
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《初仕事》10話

 ジンとシュウは村に戻り、村長の家にきていた。



「村長さん、森にいた熊は倒しました」


 シュウは村長の目をじっと見ながら言った。

 やはりここで報告をするのもシュウだ。

 すでに交渉などはシュウの仕事と化している。


「本当に……ありがとうございますっ! あなた達のおかげでヤマズは救われました!」


 村長はシュウ達に向かって涙を流しながら頭を下げた。


「やめてくださいよ、僕らだって1回は失敗してるんですから」


 微妙に顔を引き攣らせながらもシュウは頭を上げた村長に向かって続けた。


「今回の依頼に魔族が関係している可能性も出てきたので達成の報告は僕たちが直接行います」


「そうですか、魔族が……」


 村長はそう言ったあとにありがとうございます、と続けた。

 それはもちろん魔族のことについてではなく、報告をシュウ達が担うということについてだ。

 通常は依頼が達成された場合、依頼主が役場まで赴き報告をしなくてはならない。

 そうしないと報酬が払われないからだ。

 大きな町などなら役場がある町もある。

 しかし、たいていの村の場合ヤマズなどのようにその近くに役場がない場合が多い。

 そこまで行くのは当然自己負担だ。

 旅費、護衛、食費などを考えても村の人間が行くには金銭的な負担が大きいのは当然である。

 村長の感謝も当たり前といえば当たり前だろう。


 しかし、シュウ達からしてみれば感謝される必要はなかっただろう。

 なぜならば、確かに報告をするのは依頼主でなければならないが、何事にも例外というものもある。

 特に今回は魔族ということもあり傭兵団が王都に直接報告しなければならなかった。


 シュウが事前に課されていたのは、交渉でなんとかして馬車を借りるということだ。



 村長は少し考えたあと、口を開いた。


「それならばこちらからも何かお礼をしたいのですが……」


 シュウは待っていた言葉が聞けたことで、思わず早口に喋りだした。


「それならば馬車を貸してはいただけないでしょうか!僕らの馬車は壊れてしまったので……」


「馬車ですか……わかりました。それだけでいいなら差し上げます。ですが、……うちにある馬車はとても小さいですよ」


 村長はそう言ったが、どんなに小さい馬車でも自分達の馬車がないいまのシュウ達にとっては嬉しかった。


「いえ、ないよりはずっといいですよ! ありがとうございます!」


 シュウが話している間ずっと後ろにいたジンとレイナも村長の返事を聞いてガッツポーズを作っていた。



 かくしてシュウは帰る手段を手に入れることに成功したのだった。






 シュウたちは王都に帰るため、馬車に荷物を詰め込んでいた。


「やっと終わりね、今回は散々だったわ」


 もうこんな仕事したくない、とレイナが言っているのをシュウは苦笑しながら聞いていた。


「でもシュウのおかげで死んでないんだからよかったじゃないか」


 気にしないといった風にジンは言った。


「……自分の娘なんだからもっと心配しなさいよ」


 レイナが呟いた言葉はジンには聞こえていなかったのか、ジンは御者の席に座るために去っていった。

 しかし、シュウにはそれが聞こえていた。

 シュウは何を言おうかと迷ったが、結局シュウの口から何かを言うことはなかった。





 そしてシュウとレイナの2人は荷台に乗り込んだ。






 四日間もの間、荷馬車に揺られシュウがついに苛立ちすら感じてきた頃、タイミング良くドラバルドに到着した。





「レイナー! 自分の荷物ぐらい下ろしてよー」


 シュウはジンと馬車から荷物を下ろしながらやっていないレイナに対していった。


「私は病み上がりよ、私に無理させるっていうの? 男なんだからそんぐらいやりなさいよー。私は先に入って休んでるからー」


 そう言ってレイナはゴージャスに入っていった。


「全く、レイナってば病み上がりとか言ってあんなにピンピンしてるじゃないか」


 シュウが不満を口からこぼしながら作業に戻ると、


「シュウ、俺の分は終わったからあとは頼んだぞ!」


 ジンがそそくさとゴージャスに入っていくのを見ながらシュウはつい手を止めて、


「親子だなオイ!」


 と叫ぶのだった。





 やっとシュウが荷物を下ろし終わり、ゴージャスに入ろうとした時のこと。

 扉が開いたかと思うとクラスバが出てきた。


「おう! シュウ! なんでお前だけ遅いんだ?」


「先に行った2人が早いだけですよ」


 シュウが嘆息をはきながら言うと、クラスバが笑いながら言った。


「そうか、それならいい。とりあえずお前は早く入ってこいよ、みんな揃ってんだぜ!」


「みんな?」


「おう! まだ紹介してない残りの奴らだよ!」


 クラスバのその言葉を聞き、シュウは自分の中から何かがこみ上げてくるのを実感していた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 

 酒場に入るとシュウをリノが出迎えてくれた。


「おかえり、シュウ。初めての仕事はどうだった?」


「色々ありましたし、大変でした」


 シュウが苦笑いをしながらそう言うと、リノは微笑みながら言った。


「そう、でも無事に帰ってきてくれて良かったわ。お疲れ様。それと紹介してない残りの人たちが帰ってきてるから、そっちを紹介するわね」


 と言って背を向けたリノの後をシュウは胸の高鳴りを必死に抑えながらついて行った。




 そして、シュウの目の前に今4人が立っているのだが、そのうち3人がまた特徴的だった。

 シュウから見て左2人の茶髪の少女達はおそらく双子だろう。シュウには顔の見分け方が全くわからなかった。

 そしてさらに残りの2人、どちらも男なのだが、このうち右側つまり4人の中で一番右端にいる人間は頭に毛糸で編まれた帽子のようなものをかぶっているだけでそれ以外は普通だ。

 いや、普通と言うのは訂正しなければならない。

 と言うのもかなり顔が良かったからだ。

 絶世の美男子とでも言おうかというほどだ。

 そして最後の1人、その人はドラバルド傭兵団の緑のローブを着た上にさらに黒のローブを着て、両方のローブのフードを目深に被っている。

 さらにその背中には何本もの杖が背負われている。

 まさに魔法使いといった格好だ。


 シュウは先に言い出す方がいいだろうと自己紹介をするために重く閉じていた口を開いた。


「僕の名前はーー


「おおっと、……シュウだよね。リノから聞いてるから大丈夫だよ」


 しかしシュウの言葉は美男子に止められる。

 そしてその美男子は髪をかきあげながら言った。


「ボクの名前はバルシア・バートンだよ。まあ、バルシアさんとでも呼びたまえ」


 シュウはその言葉だけでバルシアの性格が分かった。否、分かってしまったという方がいいだろう。

 ーーこの人ナルシストだ! そう分かってしまうような口調だったからだ。


「あ、はい。……よろしくお願いしますバルシアさん」



 シュウがそう言うと、そこにレイナの罵声が響いた。


「黙ってなさいよ変態! シュウ!バルシアの事は変態って呼んでいいから!」


 そこから始まった2人の言い合いをシュウはただ呆けたような顔で眺めているしかなかった。



「おーい、シュウくーん? だいじょーぶー?」

「大丈夫だよきっと!」


 シュウが呆けていると突然誰かの声が聞こえてきた。


「うえ!? ……ああ、大丈夫です」


 シュウが驚いたのは2人の少女の声が全く同じ人間から出たもののようにしか聞こえなかったからだ。

 きっとこの2人がアホ姉妹と言われていた2人だろう。


「あれー? だいじょーぶだったー?」

「ほら! 大丈夫だって言ったじゃん!」


 シュウは自分たちの世界を作ってしまっている2人と、どう話をしようかとひとしきり迷ったあと、もういいやとばかりに口を開いた。


「お2人の名前は何ですか?」


「私が姉のランだよー?」

「お姉ちゃん! ファミリーネームまで言わないとダメだよ! 私はエンっていうのよろしくね!」

「……エンだって言ってないよー?」

「あ! 忘れてた! ファミリーネームはカロナだよ!」


「へ、へえ……」


 それだけでシュウにはやはりこの2人がアホ姉妹と呼ばれる理由が分かった気がした。



「えっと、それであなたは?」


 シュウは気をとりなおしてローブを二重にかぶっている男の方に質問を向けた。


「…………」


 しかし、ローブを二重にかぶっている男は何も言わなかった。

 

「その人はシュラ・アロバよ」


 何も言わない男の代わりにリノが男について話し出した。


「シュラは基本喋らないのよ。喋るのはその変なローブについてとか好きなことだけね」


 すると、シュラと呼ばれた男は突然喋り出し、


「変なとはなんだ変なとは、このローブはアロバ家に伝わるローブなんだぞ」


 そして腕を組み黙ってしまった。


 するとそこに、つい今の今まで言い合いをしていたレイナとバルシアが


「だからって二重はないでしょ!」

「二重はダサいよね、同じ傭兵団としてやめてほしい限りだよ」


 そういったせいで、今度はシュラまで含んだ言い合いが始まるのだった。

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