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伝説の傭兵団  作者: メガネ右
一章《初仕事》
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《初仕事》9話

 期限の日の朝、シュウはジンとともに森に向かっていた。



「ジンさん、そろそろ森につきます」


「分かった」


 ジンはそう言って頷いたきり口を閉じてしまった。





「見えてきたな」


 森が見えてきた時、ふいにジンが呟いた。


「ここからは僕が昨日熊と遭遇したところまで行けばいいんですよね?」


 シュウの確認にジンは黙って頷きを返した。




「ジンさん! 前方からハウンドがきます!」


 森に入ってすぐ、シュウたちは魔物の集団に襲われていた。

 シュウはジンへの報告をすませると、魔物たちを次々になぎ倒していった。

 そこにジンは加わらず、ただ見ているだけだった。

 森に入る前にジンは熊以外の魔物はシュウ1人で相手をしてみて、無理そうなら加勢すると言っていた。


 というのも、シュウの実力を確実に確かめておかなければならなくなったからだという。




 シュウは迫り来る魔物を光の矢や光弾、自分の拳で戦闘不能にしていった。




 そして、ある程度の魔物を倒した時、昨日と同じように魔物が急に現れてこなくなった。



 シュウとジンはより一層警戒を強めながら進んでいった。




 しばらく歩いていると、昨日シュウとレイナが熊と戦った場所に着いた。

 そこは戦いの後が未だに残っていた。


「ここが僕らが戦った場所です」


「ってことはこの辺りにやつがいるかもしれないってことだな」


 ジンはシュウの戦いを見ているうちにしびれを切らしているようだ。

 まだ出てこないのかよなどと言っている。


「そんなに簡単には出てこないでしょ」


 シュウがジンに対してツッコミを入れた時、



「グオォォォ」



 赤い目の熊が現れた。

 その熊は確かにシュウが見たものだった。


「ジンさん! そいつです!」


 ジンはシュウの声を聞くより速く熊に向かっていった。



「うおおお!」


 ジンは雄叫びとともに自分の剣を振るった。


 ジンの剣は大剣ということもあり、レイナのようには速くなかった。


 レイナが戦っているところを見ていた熊は難なくジンの剣を回避する。


 しかしジンはただ剣を振るっただけではなかった。


 剣から衝撃が発生し、熊を襲ったのだ。




 ジンは常人の数倍の魔力を持ち合わせている。

 しかし、ジンは魔法を使うのがあまり得意ではなかった。

 いわゆる宝の持ち腐れというやつだ。

 しかし、そんなジンはあることを発見した。

 魔力を一気に放出することで相手に衝撃としてぶつけるというものだ。

 最初は相手を怯ませる程度のことしかできなかったが、その扱い方を学ぶとともに衝撃の威力は強くなっていった。


 そしてある日、ジンは金属に魔力を通すと魔力が通りやすく、普段より威力が強い衝撃を放てるということに気づいた。

 そして出来たのが今のジンの戦い方だ。





 熊の左肩から先が吹き飛んだ。


「グオォォォオオォォォォォォォォォォォォ!!」


 熊は突然のことに驚き、叫んでしまった。


「泣いてる暇なんかねえぞッ!」


 ジンは熊が作った隙につけこみ、さらに頭を狙って剣を振るう。


 熊はなんとか頭を避け切ったが、次は右肩が吹き飛んだ。


「ちっ、やっぱりか」


 ジンは悔しそうに舌打ちをした。

 ジンの視線の先では熊の両肩から腕が生えてきていたからだ。


「ニョキニョキニョキニョキと気持ち悪いなクソッ! やっぱりいっぺんに潰さねえと無理か!」


 そう、魔虫にとりつかれた魔物は全身を消し去られない限り再生する。

 それが魔虫の最も厄介なところだった。


 ジンは熊を1発で消し去るために、魔力を一気に放出する機会を狙っていた。

 魔力を一気に解放するには、それ相応の時間が必要だった。

 シュウに手伝ってもらえば簡単に出来るとはいえ、事前にジン1人で相手をすると言ってしまった以上はもうその選択肢はなかった。



「オラァ、くらえっ!」


 ジンは熊に向かって袈裟懸けに大剣を振るった。


 それがあまりにもおお振りだったせいで熊は衝撃の分も考えて余計に離れた。


「グオォォ?」


 熊はおもわず頭をかしげた。

 起こるはずだった衝撃が起きないのだ。


 それは一瞬だった。

 しかし、その一瞬があればジンにとっては十分すぎた。


「ハァァァァァァ!」


 鋭く踏み込み、一気に間合いを詰める。

 そして相棒とともに精いっぱいの魔力を熊にぶつけた。


 ジンの起こした衝撃はレイナを傷つけられたことによる怒りを表しているかのようだった。




 舞い上がった砂埃が薄れる頃、熊がいたはずの場所どころかジンの周辺には何も残っていなかった。



「やりましたね、ジンさん!」


 シュウは熊の姿が見えなくなるとすぐにジンの元に駆け寄っていった。


「おう、でもまだ他にもいるかもしれないからそんなに浮かれてはいられねえぞ」


「あはは、すいません」


 シュウはジンのその言葉で落ち着きを取り戻した。


「でも、これでこの村も平和ですね」


 シュウのその言葉にジンは顔をしかめた。


「……そうでもねえかもしれねえな」


「えっ、どうしてですか?」


 シュウは首を傾げ、ジンに質問した。


「ほら、魔虫は普通魔界にいるやつだって言ってただろ?それがここにいるってことは……」


 そこまでいわれ、シュウは気づいた。


「あっ、そうか魔界から持ち込まれるしか方法はない。それができるのは……魔族だけだ」


 シュウの言った通り、魔虫がここにいたということはつまり魔族が王国内に侵入したということだ。


「そうだ、こりゃあ帰ったら忙しくなるな」


 ジンは面倒くさそうに頭をかきむしりながら言った。





「ジンさんさっき帰ったらとか言ってましたけど今も十分に忙しいですよ!」


「そんな他人の揚げ足取るようなこと言ってる暇あったら口じゃなくて手を動かせ手を!」


 叫びながらもシュウとジンは次々と襲ってくる魔物達の相手をしていた。


「なんだってこんな急にきやがるんだよ!」


 ジンが叫ぶとシュウがそれに応じて叫んだ。


「熊を倒したから指示するやつがいなくなったんでしょ!」


 そう、図らずも熊という統率者をジンが撃破したことで魔物達が一斉に襲いかかってきたのだ。


 シュウの光の矢が宙を舞い、ジンの衝撃で魔物が宙を舞う。




 しばらくして魔物の襲撃もおさまった。


「やっと終わりましたね……」


 シュウは手を膝につき、息を乱しながらも言った。


「……そうだな」


 ジンはそれに対し、木に背中を預けた状態で答える。


「でも、これが指揮系統の乱れからおこったんだと考えるならもう他に熊はいないってことですよね!」


 シュウは頬を緩めながら言った。


「まあ、そうだろうな」


 ジンもまた機嫌よく答えた。

 が、さらにジンは言葉を続けた。


「でも、一応確認はしておかないとな」


「分かってますって」


 シュウもわかってはいるようだったので、ジンはその場から立ち上がり、行動を再開した。





 2人が森の安全を確認し終わるまでに魔物の襲撃こそあったものの、熊が出現することはなかった。

 

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