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伝説の傭兵団  作者: メガネ右
一章《初仕事》
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《初仕事》8話

 まだドラバルド傭兵団が今ほど有名ではない、普通の傭兵団だった頃の話をしよう。


 ジン・ファルドがまだ14歳だった頃、


 ある日少女がドラバルド傭兵団に入団した。


 彼女の名前はレスタ・シリア、ジンと同じく14歳だった。


 それに彼女の髪はジンと同じ青色だった。


 そのこともあり、ジンはレスタの最初の挨拶が終わったあと、すぐに話しかけた。


「レスタって言うんだね、俺はジン、年は君と同じだ。よろしくね」


 そう言ってジンはレスタに手を差し出した。



 突然手を差し出されたレスタは困惑していたが、相手に不快な思いをさせるのはいけないとすぐさま握り返した。


 手を握り返されてジンは満足し、さらに話しかけた。


「最初の仕事さ、僕と一緒に行かない? ちょうど今近くの村で魔物の討伐依頼があるんだ」


 ジンが持ってきた依頼書を見てみるとどうやら簡単そうな仕事だった。


 それに最初の仕事を1人でやるということには不安があったので、レスタはジンの提案を承諾した。


 さらにレスタは最初の仕事だけでなく、ほとんどの仕事をジンと一緒にこなした。


 仕事をこなすうちにジンはさらにレスタのことを思うようになり、レスタもまたジンのことを気にするようになった。



 レスタが入団して1年ほど経った頃だった。



「レスタ、俺は君のことが好きだ!」


 ジンは勇気を出して自分の気持ちをレスタに告げた。


 ジンは最初の時と同じようにレスタに手を差し出した。


 ジンの突然の告白にレスタは驚いたが、それは入団したあの日のような困惑ではなく、純粋に嬉しくて驚いたのだ。


 レスタはジンの告白に泣きながら応じた。


「……っありがとう! 私もジンのこと好きよ!」


 ジンははにかみながらありがとうと言った。



 そのことが傭兵団全体に知られ、時にはジンやレスタがからかわれることもあったが、恥ずかしがりながらも2人はそれを嬉しく思った。




 それから一年の月日が流れ、ジンもレスタも16歳になった時、2人は結婚した。


 それはちょうど2人が最強のカップルとして有名になっていた頃だった。




 それから一ヶ月が経たないうちに2人は2人にとって特別な仕事に出た。


 レスタの最後の仕事だ。




 最後の仕事の日、ジンはいつも通り大剣を背中に背負っていた。


 レスタはというと、腰にいつもの刀をぶら下げていた。


「ついにレスタの最後の仕事だな」


 ジンはレスタに惜しむように声をかけた。


「もう、やめてよ死ぬわけじゃないんだから。あ、馬車きたよ」


 レスタは笑いながら答え、馬車に乗り込んだ。

 



 しばらくして、二人は目的地の平原に着いた。

 この日の依頼はファングウルフ13体の討伐だった。


「じゃあ、早速行きますか!」


 ジンは笑いながら言った。


「うん、いつも通りね」


 レスタもまた笑いながら答えた。




 しばらく歩いていると、二人はファングウルフに遭遇した。


 ファングウルフとはその名前の通り、鋭い牙を持った狼だ。

 特に厄介なことに、ファングウルフは群れを作り、集団で狩りを行う。

 その連携は並の傭兵団では破れないだろうとすら言われる。


 しかしそこは最強の夫婦と言われるだけあって難なく破ることができた。


「レスタっ! 正面と右から2体ずつ!」


 ジンが叫ぶ。

 それに目で追えないような速さでレスタが反応した。


 深く踏み込み、振るわれた刀が横に一閃する。


 それだけで右から来た2体は体が2つにわかれた。


 正面から迫るファングウルフには、ジンが対応した。


「オラァァ!」


 上から垂直に落ちてきた大剣は2体のファングウルフの間を通った。


 ーー次の瞬間、地面にぶつかった大剣の周りに空間を歪めるような空気の振動が起きた。


 ファングウルフは空気の衝撃によってグチャグチャに潰れた。




 ファングウルフとの戦いが終わり、ジンとレスタは戦いの余韻に浸っていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 それはレスタの最後の仕事が終わり帰った後だった。

 レスタが突然倒れたのだ。

 突然のことで驚いたジンはパニックに陥った。


「お、おいレスタ! どうしたんだ!」


「大丈夫、ちょっと目眩がしただけよ」


 レスタは苦しそうに立ち上がった。


「ちょっ、全然大丈夫じゃないだろ!」


 ジンは倒れそうになるレスタを両手で支えた。


「とりあえず教会に行ってみよう。疲れてるのならそこで回復すればいい」


 レスタは朦朧としながらも必死に頷いた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「おめでたですね」


 神父にそう言われ、レスタは驚いた。


「やったなレスタ!」


 ジンも笑って喜んでいた。




 子どもが生まれる時のために2人はさっそく家を買った。





 ーーそれから1年後、


 レスタは元気な女の子を産んだ。


 女の子にはレイナという名前を付けた。







「パパ〜だいしゅき〜」


 ジンはニコニコしながら自分に寄ってきたレイナを抱いた。


「お〜、よしよし。レイナはいつも可愛いね〜」

「えへへ〜」


 レイナは順調に成長し、3歳になっていた。

 そしてジンは順調に親バカになっていた。


「もう、ジン! 帰ってきたら鎧ぐらい脱いでよ!」


「あはは、ごめんごめん」


 レスタたちも20歳になり、一家には暖かい空気が流れていた。





 それはある日の午後だった。


「ジン! ジンはいるか!」


 クラスバ・ゴージャスはジンの家に来ていた。


「どうしたんだよ、クラスバ。うるさいぞ!」


 ジンは突然きたクラスバに寝ている娘を観察する時間を邪魔されて不機嫌にだったのだが、


「魔物の集団が王都近くの平原に大量発生したらしい。魔族が関わってるかもしんねえ、とにかく、来てくれ!」


 クラスバの言葉にジンの不機嫌はどこかへ飛んで行った。


「魔物か!? わかったすぐ行く、ちょっと待ってろ」




「レスタ! 魔物の大量発生が起こったらしい。俺は魔物の処理に行くから家とレイナはお前が守ってくれ!」


 突然のことに驚いたレスタだったが、もともと傭兵団だったこともあり、返事ははやかった。


「分かったわ。ジン、気をつけてね」


 レスタは不安はあったが、ジンが死ぬことはないと分かっていた。





 ジンは酒場「ゴージャス」に来ていた。


「それで、魔物はどれくらいいるんだ?」


 と、聞いたのはジンだ。


「数え切れないほどとしか聞いてねえ、今も応戦中だそうだ。とりあえずいそごう!」


 クラスバは見るからに焦っていた。

 場所は王都近くのレスタの最後の仕事の時も行った平原だったので、このドラバルドあたりからも近く、常に危険な状態なのは変わらなかったからだ。







 ジンは最前列で戦っていた。


 「魔物もあらかた片付いたな」


 ジンが呟いた時、後方から声が聞こえた。


「王都の中で火事だ!」


 嫌な予感がした。



 その予感にからだを支配されたようにジンはひたすら家まで走った。


 ーー火が出たのは家があるあたりだった。


 (頼むからまだ残っててくれ!)


 ジンが家に着いた時、家は燃えていた。



 そのあとのことをジンはそれほど覚えていなかった。


 覚えているのは、レイナが救助されて助かっていたこと。


 そして、レイナがレスタが持っていたはずの刀を持っていたことだ。






 ーーそう、ジンがいない間にレスタは死んだのだ。

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