おやすみ
同じ部屋に二人で過ごしてるけど。
どうも沈黙。
でも、いいんです。僕らってそんなもん。
いつの間にかご飯を食べ終わったらしい彼は、テレビの前で漫画を読む僕の隣に寝転がった。
さっき帰ってきたばっかなのに、もう食べたのか。
こんなところで寝たら風邪引くと思うんだけど。
そんなこと思いながら、彼の隣。
とあるファッションブランドのお店で働く彼は、いつも素敵な服を着てる。
僕もお洒落が好きだから、服に囲まれる彼の生活はちょっぴり羨ましい。
でも、僕には人と気さく話す能力もなけりゃ根性もない。
大学で出された課題をこなしたり、授業の予習をするだけの毎日で十分だ。……なんて、ね。嘘じゃないよ。でも、本当とも言いにくいんだけど。
「明日は何するの?」
答えてはもらえない。
こうして疲れて帰ってきたときに、しつこく話しかけたら機嫌を悪くするのは分かりきっている。
僕が忘れた頃に、たぶん返事が返ってくる。そんなもん。
頭をぎゅっと抱き締められた。
これはきっと、彼のベッドにある夢の国で買った抱き枕扱い。
慣れたもんです。
別にいいんです。そんなもん。
視界は真っ黒。触れた手のひらは冷たい。
誰でも、何でもいい枠に僕がいるってことは、たぶんそんな重要じゃない。
彼にとっては、たぶんそんな重要じゃない。
抱き締めさえできればいいのだ、温かければ尚いい。
だけど、僕にとっては。
抱き締めてもらえれば、その枠に僕が居続けることができれば、
なんか、それでもう、愛されてる気になって、十分。そんなもん。
恋愛感情って言うほど、かわいいもんじゃない。
じゃあ、なに?って聞かれると、まあ困るけど、とりあえず好ましく思ってる。
お互いきっと、そんなもん。
愛とか、そういうのはよく分かんないけど、
自分の中に秘めてるあったかいのが、相手にも伝わっていくといいなと思う。感じ。が、する?……そんなもん、なんですよ。
「ご飯、朝に回していい?」
って、食べてなかったんかーーい。
……まあ、いいけど。よくないけど。いいことにしといてやろう。
「掃除でも、しよかな」
それはいいね。
そろそろ雪崩が起きるから。
汚すぎるんだよ、お前の部屋。
「……ねむたい」
「風呂入ってるよ」
よたよたと歩き出した彼の背中を見送って、再び漫画を。
ううん、なんつーか、よく分からん。
彼が通販で頼んだ漫画は、どうも分からん。
子供のときにはまったのだとか言ってたけど、意味が分からん。
おもしろいのか?
……おもしろくはないな、たぶん。
これが面白かったら、たぶん今ごろ僕たちベッドの上でチョメチョメしちゃってる。
そのくらいの革命起きるよ。
いい加減毎日同じ繰り返しに飽きてきた。
1日を何度もワープして、最高のものにする映画を見たけど、どうもそんな風にハッピー思考にはなれない。
1日ではないけど、毎日繰り返し。
毎日だらだらするのが、僕にとっては幸せってやつで。
そこに彼との会話があれば、もう言うことなしなんだけど。
とりあえず明日も繰り返そう。
おやすみ。