夕さん
うちには夕さんがいる。私が夕子で、彼女は夕さん。私にそっくりの、とっても綺麗な女の子だ。勿論、それは間接的に私は美人だと言っているのだが、不肖二つ下の弟は、何故か、私が確信の下、そのように表明すると、アイドル雑誌を私に向けて、寂しげな笑みを浮かべやがるのだ。
眼だって、鼻だってほぼ似たような位置に配しているではないか。
審美眼の足りない、照れ屋の弟である。
父は中小企業のサラリーマン、母は専業主婦だったのだが、先月より、週に三日のパート、スーパーマーケットでレジ打ちをしている、世はなべて厳しい。ボーナスが減ったのだ。
さて、夕さんとは何者なのか。
ひょっとして、私は一卵性の双子で、出産時に一人が亡くなってとか、そんな哀しい話が、ないない、と母がぱたぱたと手を振ってそれを否定する。はっ、ひょっとして、これが座敷童子というやつ。でも、田舎の名家ならともかく、新興住宅地の角っこ、なによりも、うちは、それほど裕福でもなんでもないのだ。
「ね、夕子。テレビつけて。面白いのやってるよ」
半透明の夕さんは、靄みたいなもので、実体が無い、だから、テレビのリモコンの操作が出来ない。テレビをつける。長年の付き合いだ、チャンネルなんか、言わなくてもわかる。
テレビでは漫才をやっていた。
「うまいこと言うよね、あはは」
足をバタバタさせ笑う。ちょっと、お姉さん風を吹かせる、でも、ちょっと、泣き虫の、そう、夕さんはうちの家族なんだ。
「おーい、夕子、夕。早く晩ごはんを食べなさい」
「夕子」