エピローグ―Epilogue―
8月のある日、有明では大規模な漫画・アニメの祭典が行われていた。その参加者は軽く10万人を超えると言う。
そのメインホール内では、さまざまな作品のコスプレをした人物、リュックを背負った人物、中には大きなかばんや紙袋を両手に…と言う人もいた。
「新刊は、こちらになります! 1人1冊でお願いします! 通販も予定してますよ!」
ホール内の壁スペースエリアで1人テーブルに座っているのは、巷で人気のアイドルゲームに登場するステージ衣装を着た女性だった。
「新刊1冊ください」
「ありがとうございます!」
そんなやりとりが何度も続いている中で…。
「西雲隼人か…何をしているんだい?」
グルグルメガネをかけたオーディーンがスペースの前に現れたのである。そして、オーディーンは聞いた一言は…。
「西雲…一体何の事でしょうか?」
目の前の人物はサラっと話を流した。別人なのだろうか?
「細かい事は気にしないでおこう。新刊、1冊お願い出来るかな?」
オーディーンは多くを語る事無くスペースを後にした。
「まさか、オーディーンのコスプレ―じゃないよな?」
「コスプレにしては、良く出来ていると思ったが」
「もしかして…本物?」
その場にいたお客の何人かは、着ている衣装が決勝で身に着けていた物と同じ事から本物なのでは…と言う意見も浮上していた。
「やはり、この空気には慣れないと言うか…自分にとっては厳しい物があるな。近くに大きなゲーセンがあるから、そこで涼んでから帰るか」
そして、オーディーンは有明の会場を後にして、お台場にあるゲーセンへと向かっていた。
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足立区
オーディーンが漫画・アニメの祭典会場入りして、10分経過。
「これは、なんという…」
ある物が運ばれてきた足立区内の大型倉庫、それをみた作業着姿のスタッフの一人が驚いていた。
「この機体のAIを調べて欲しい。おそらくは…」
倉庫に足を運んでいたのはバルムンクとグングニルだった。両者とも今回はオフらしく、カジュアルな衣装で決めている。ただし、バルムンクはサングラス着用だが。
「確かにお二人の頼みとあれば、特に断る理由はないんですが…。これは、あの事件に大きく関わっている機体。警察等が黙っているとは限らないでしょう?」
スタッフがコンテナから引っ張り出したのは、ハスラー・ナインの頭部だった。どうやら、他のパーツは警察で厳重保管されているらしく、別のコンテナで運び出されようとしていた頭部を2人が回収したらしい。
「この頭部自体は、何者かが現場から密かに運び出そうとしていた物だ。警察の目には止まっていない。頭部だけ回収しようとした理由は、大体読めているが―」
グングニルは、この頭部を密かに運び出そうと考えていた人物が再び混迷の世界を作り出そうと考えていた…と思っていた。
オーディーンが漫画・アニメの祭典会場入りして、30分経過。丁度、新刊をいくつか購入し、最後に西雲と思われる人物と接触した時―。
【期待の新人か?】
【予想以上の実力がありそうだ】
【これは凄い】
【信じられない】
【初見でフルコンボとか、何かの才能があるに違いない】
ネット上で話題となっていたのは、1人の新人プレイヤーだった。撮影場所は足立区のアンテナショップである。丁度、北千住でイベントを行った後に新規オープンして、最近では名所にもなっているようだ。
「きっかけは、ジェネラルのプレイ動画だった」
彼は、こう語った。普通であれば、ナツキやグングニル、バルムンク等の名前が挙がりそうな状況でジェネラルの名前が出てきた事について…。
「彼のプレイには、スーパープレイよりも確実なプレイと言う物が感じられた。スーパープレイも動画映り等を考えると良いのかもしれないが、怪我をせずにより安全にプレイする事も重要なのでは―」
この発言についてネット上では意外だという言葉が多かった。エイジとオーディーンの対決で忘れ去られそうな状況でもあったが、一番のメインはルールを守って、より安全に正しくプレイする事…これがスターダストでは重要なのである。
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草加市
オーディーンが漫画・アニメの祭典会場入りして、1時間が経過。珍しいサンドウィッチを片手にファストフード店で食事をしている。時間はお昼の12時である。
その頃、草加市のスターダストトライアル専用コースでは、正式稼働したスターダスト・セカンドが順番待ちの状態になっていた。炎天下の中で順番待ちが発生するのも…と言う事で、整理券を配って熱中症にならないように各種アドバイスを行っている。
「やっぱり、中の方が涼しいな―」
「アンテナショップを含め、スターダスト関係は全て太陽光発電に加えて、熱サイクル発電…正直いって驚いたな」
「スターダストを含め、8割近くが太陽光、残りも自然エネルギー、1割がアンノウンだったが…火力等の類ではないようだな」
「他の世界線では魔力や未知の科学…と言うのもあったが」
「どのエネルギーでも長所及び短所がある。それを補った結果が、スターダストの太陽光+熱サイクル発電―」
彼らが話している熱サイクル発電とは、簡単にすると「道路から発生する熱を利用して発電をする」というシステムらしい。現在開発中で、他の世界線でも実用化されている所もあるようだが…。
「これが、新たなスターダスト―」
エイジがアンテナショップで見ていたのは、他のプレイヤーがプレイしている中継映像である。そこでは、バイク型のスターダストとロボット型のスターダストが対決をしているシーンだった。
【今度のスターダストはロボか…】
【ハスラー・ナインのアレは先行型だったのだろうか…】
【向こうのアレは、救助活動用の物だったという警察発表があったばかりだが…頭部だけなかったのが気になる】
【頭部だけ別の物を差し替えていたのが有力じゃないのか? 誰が何のために…と言われると自信はないのだが】
エイジはネット上でハスラー・ナインの話題が触れられていたという部分のやりとりをスマホで確認していた。
「スターダストで扱う物が変わろうと、音楽ゲームである事に変わりはない」
そして、エイジは整理券を片手に受付へと向かった。
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足立区・大型アミューズメント施設内
オーディーンがお台場のゲーセン入りをして30分が経過。時間は午後1時。
「なるほど。彼女は、向こうにいるのか」
オーディーンがスターダスト用の大型モニターに映し出されたのを見て、グングニルは驚いた。工場の用事は終了し、バルムンクがメインに通っているゲーセンへ…と言う事で大型アミューズメント施設へと向かったのである。
「お台場と言う事は…西雲も別の用事で有明にいると言う話だが―」
バルムンクの予想は的中している。
「なるほど…そう言う事か」
グングニルが例の頭部に関しての調査結果をメールで確認していた。どうやら、予想は的中したらしい。
【ヘッドのメモリーから超有名アイドルが今まで行っていたCDチャートの不正操作、音楽番組等での口パク、その他多数の不祥事に関してのデータが残っていた―】
どうやら、この不祥事に関するデータがハスラー・ナインのイレギュラー判別に使われていた…と考えられる。
「これが警察の手に渡れば、超有名アイドル規制法案は更に加速し…最終的には3次元におけるアイドルは規模が縮小、逆に2次元アイドルがメインになるだろう」
バルムンクは思う。これが警察に渡る事は、日本だけではなくその他の世界線でも超有名アイドルが絶滅する事を意味しているのかもしれない…と。
「そして、これを運び出そうと考えていたのは…何処だ?」
グングニルは疑問に思う。これだけのデータを警察に知られるのを恐れるのは、芸能事務所だけではないはず。一体、誰が運び出そうとしていたのか…?
同じアミューズメント施設には、ジェネラルの姿もあった。しかし、彼が2人に会う事はなく、別のゲームをプレイしていたのだが…。
「これだけの事件が表沙汰になれば、超有名アイドルは間違いなく消滅するだろう。ハスラー・ナインが警告したメッセージ、それを―」
次の待ち時間の間、彼はとある小冊子を読んでいた。これは、オーディーンが有明で購入した物と同じ本である。
「これが噂のセカンドモデル…既に稼働していたのか」
バルムンクとグングニルも、モニターでスターダストのセカンドを確認していた。まさか、ロボットを動かす事に…と言う部分には驚きを隠せなかったが―。
「音楽ゲームの進化は、とどまる事を知らない。そして、その進化にプレイヤーが追いつけるのか―見どころだな」
バルムンクは、これからの音楽ゲームがどのように進化していくのか…それを見守っていこうと思っていた。
ジェネラルの元に1本の電話が入った。時間は午後2時ごろか…。
《ハスラー・ナインのヘッドは、警察ではなくガーディアンの手に渡りました。まさか、ガーディアンが介入するとは想定外でした―》
電話の主は女性のようだ。
《しかし、例のデータに関してはバックアップを手に入れた後でしたので、こちらの損害は特にありません。プロテクトが破られたとしても、あのデータにはたどり着けないでしょう》
《それに加えて周囲の根回しも完了しております。超有名アイドルに関する更なる規制も―》
《芸能事務所側は今頃…。彼らが今まで行ってきた不正の全ては警察やその他の勢力にも提出済と知れば―》
【速報:ワンウェイプロ及びハンターズプロの2社に対して家宅捜索が行われた模様】
ネット上でも速報が流れ、大騒ぎになっているようだ。ジェネラルはスマホのニュース速報を見て、プロジェクトが予定通りに進んでいる事を確かめた。
《彼らが行ってきた不正の全ては、いずれ裁きを受ける事になるでしょう。『ルールを守って、正しくバトル!』の精神に反する彼らは表舞台からは駆逐されるのも時間の問題―》
《ですが、他の世界線では超有名アイドルの進出を許す事になるかもしれません。これに関しては、第2、第3の超有名アイドルが現れる事も―》
《歴史は繰り返される。この世界線でも結局は同じ事を許してしまった。リーダーとなるべき存在は必要かもしれませんが、永久神話的なアイドルは必要ないのです》
《そして、アカシックレコードに触れていたのはオーディーンだけではないという事に気付くのも時間の問題でしょう…》
《向こうもハスラー・ナインの件にはニュースを見て気付く頃…。こちらに関しては、隠し通す事は不可能かもしれません》
《定時報告はここまでと言う事で…。後はメールでお伝えした通りにプロジェクトを進行いたします》
ここで電話は切れた。
「音楽業界正常化組織としてのガーディアンか…。彼らもハスラー・ナインが警告したイレギュラーになるのか、見届けさせてもらおうか」
ガーディアン、それは音楽が持っている本当の力を正確に伝え、音楽業界の正常化を目的とした組織である。彼らが敵となるか、味方となるかは今後の動向次第だろう。ジェネラルは、彼らが敵にならない事を祈っていた。
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お台場・大型アミューズメント施設
スターダストプレイ後、オーディーンはペットボトル入りのスポーツドリングを口にしていた。時間は午後2時か。
【速報:ワンウェイプロ及びハンターズプロの2社に対して家宅捜索が行われた模様】
ネットでの速報を見たオーディーンは驚くような表情を見せず、冷静にニュースをチェックしていた。
「超有名アイドルとの戦いが終わったのではなく、始まりという意味なのだろうか―」
オーディーンは思う。超有名アイドルを憎み、闇堕ちをしていた時は音楽業界がどうなろうと関係はなかった。しかし、今は…。
「あれが噂の―」
彼女もスターダストのセカンドが稼働しているのを見るのは初めてである。しかし、現状では設置店舗が限られる為、モニターでの稼働確認しかできないが…。
「まさか、アレが本物の道路で走る日は…さすがにないか」
それは他の世界線…と言いたそうな目で稼働している様子を見ていたが、ふと見覚えのある人物が現れると―。
「もしかして…?」
ある人物の登場で、オーディーンはモニターの方を注視するようになった。その人物とは―。
「定時報告はここまでと言う事で…」
オーディーンがいるエリアとは別のスペースで黒髪のメイド服を着た女性が電話をしていた。その後、彼女は何処かへとメールをしているように見えたが…。
「セカンドシリーズ…。噂ではサードシリーズの伏線も存在するとか」
彼女もオーディーンが見ている物と同じモニターを確認していた。
「彼らの道と、私達の道は何処かで外れてしまったけど、いつか交差する時が来るはず…」
何かを確認したラファエルは、そのまま施設を後にした。
「世界線は変動し続ける。この世界でも、別の世界でも…」
ラファエルは超有名アイドルが神話であり続ける時代を否定し続けてきた、世界線の観測者でもあった。アカシックレコードのサイトも彼女が作り出した物であり―。
その後、超有名アイドル2強時代は終焉を迎え、新たなるアイドル戦国時代が幕を開けた。
今度は芸能事務所もルールを破る事のない活動を…続けていると思われていた。
歴史が再び繰り返される時…再びガーディアンは立ち上がり、全てを正常化する為に動きだすだろう。
彼らに安息の日が来るのか、それは誰にも分からない。
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スターダストトライアル専用コース
午後5時を回った頃、ようやくエイジの出番が回って来た。出番が回るまでの間はスターダストをプレイしており、準備運動はバッチリと言う気配だろう。
「機体の方はバイク型のレンタルだが…現状では仕方がないのかもしれない」
バイク型はアンテナショップでもキャンセル待ちになっており、それだけ前評判がロケテスト時から高かった事を物語る。
「そして、これがスターダストの新たな道への―」
新たなる音楽の舞台へ、エイジは疾走する。これは、ファーストの終わりではない。新たなるセカンドの始まりなのだ…と。
【これが全ての始まりになるのか、それとも…】
【ロケテスト前のトライアルでは多くの難点が浮上したらしい。それをロケテスト前に修正した物が、今回のセカンドのようだが…】
【それだけの難点が、どの地点で浮上していたのか―】
【一説によると、ハスラー・ナインの地点で…と言われている。正確な部分は分からないが】
【そうなると、ハスラー・ナインもミスター・スターダストによって『用意されていた物』と言う事になる】
ネット上では大きな事故報告が出ていないセカンドバージョンに対して疑問が浮上し、それらが色々な箇所で書かれている。
【どちらにしても深く考えない方がよさそうだ。確かにセカンドバージョンには細かい問題点もあるが、それらはこれから指摘をしていけばいい話だ】
【それもそうだな。最初から完璧超人と言うのは存在するはずがない。それは、漫画やアニメ等の世界だけに限って欲しい物だな―】
そして、音楽ゲームは新たなるステージへ突入する。