光と闇―Light and darkness―
これまでの次ラウンド進出者は…。
第1ステージ:プラチナ・エビル(29位)、女神アラストル(12位)
第2ステージ:セラフィム(6位)、オーディーン(2位)
第3ステージ:疾風ナツキ(7位)、ハスラー・ナイン(16位)
第4ステージ:西雲隼人(10位)、ラファエル(11位)
第5ステージ:ジェネラル(5位)、カシム(9位)、バルムンク(3位)、グングニル(4位)、剣咲エイジ(1位)、?????(22位)
激戦区の第5ステージは、これから始まる所だったのである。
【ジェネラルのプレイは参考にならないと言われているが…上級者向けではない事は確かだな】
【しかし、オーディーンとエイジをステージ分離したのは分かるが、バルムンクとグングニルを同じにした理由が―】
【第5ステージのメンバーが意図的過ぎる理由、もしかすると鍵を握るのはプラチナ・エビルかもしれない…】
【覆面と言えば、ハスラー・ナインとラファエルも素顔を見せていない。もしかすると、そちらも何か理由ありなのかも】
ネット上では、第5ステージ関連の話題と同時に組み合わせが一種の陰謀なのでは…と言う話もあった。
その他の特設会場で行われている他のイベントも大繁盛となっていた。スターダストの初心者講習会では、上位ランカーと呼ばれるプレイヤーや大会には出場しなかった有名プレイヤー等が初心者に向けて実演を行っていた。
「超有名アイドルが全世界を支配…と言う事はありえない。本来の音楽の売り方として、このやり方が間違っているから―」
鉄仮面を思わせるマスクに洋風とも言える衣装をした人物が、壇上で力説をしている。どうやら、ここでは音楽業界のこれからという題目でディスカッションを行っているようだ。
「どうやら、僕たちの曲がステージで実際にプレイされたみたいだね。では、それに合わせて1曲―」
実際のアーティストをゲストに迎えたコンサートでは、第4ステージで行われたバトルの映像をバックにムラサメ本人が《サイバーゲート》を披露する。
「このサンドウィッチは珍しいな―」
「チョコ焼きと聞いて、焼きチョコレートのようなものと思ったら、出てきたのはたこ焼きだった―」
麻婆春雨をベースにしたサンドウィッチ、たこ焼きの中身をチョコにしたチョコ焼き等の珍しいメニューの屋台も並んでおり、こちらも好評である。味に関しては、保証しないが。
「サントラアルバム以外にも、限定グッズが目白押しだな」
「サントラは通販できるが、アンテナショップ限定グッズも、今回に限っては大量においてあるとは―」
物品販売でもアンテナショップ限定品のアイテム、それ以外の商品も会場限定で割引されていた。こちらも遠征勢等には好評のようだ。
###
「選曲権利は、私にあるようだ」
選曲権利は…予想外ではあるがバルムンクに渡った。カシムは当たりを引けなかった事を悔しがったが、他のメンバーはそんなリアクションは見せなかった。
『第5ステージの楽曲は…!?』
バルムンクが選曲した曲名を司会者が読み上げようとしたが、タイトルを見た司会者の顔が驚いているようにも見える。
「曲名に関しては自分から説明する。NightMareのハイパーだ…」
中世の騎士を思わせる鎧を着た金髪の人物、バルムンクが曲名を宣言する。そして、その曲は意外にもNightMareだったのである。
「よりにもよって、あの曲か―」
前回のエイジと戦った時とは違い、ロボットアニメに出てくるようなノーマルスーツにイメージチェンジをしたカシムは衝撃を受けた。
「確かに、この曲ならば特に細工をされる可能性も少ないか―」
何かの懸念をしているような一言を発したのは、SFに出てくるような青いメットに青基調のインナースーツ、各種アーマーを装着したグングニルだった。なお、この発言はマイクでは拾われていない。
「NightMareか…。ハイパーもクリアできていない曲が来てしまった―」
この発言をしたのは、意外にもジェネラルだった。特撮のヒーローを思わせるような銀をベースにしたスーツが、逆にモチーフが分かりやすいと言う事で人気のプレイヤーである。
「………」
一方でステージに立っているものの、未だに無言だったのはエイジだった。前回の予選とは違い、マントはしている物の重装備武器を装着している気配はない。
各メンバーが所定の位置に立った所で、プレイ開始となった。
「現れたか―」
会場外に設置されたモニターで様子を見ていたラファエルの前に現れたのは、プラチナ・エビルだった。
「ここでは何も語らないか…まあ、いい。この戦いは、お前が書いた筋書き通りに事が運ぶと思ったら大間違いだ―」
ラファエルは何かを知っているような口調でプラチナの動向を見たが、何も語る気配は全くなかった。
「ここでメンバーが揃うのも珍しい。そして、プラチナ…お前の正体は既に分かっている。そんな小細工が無駄である事を、このバトルを見て知るだろう」
次に現れたのは、セラフィムだった。次のラウンドが行われるのが、第5ステージと同じの為に他の会場から移動してきたのである。
その一方、次ラウンド用控室に入って来たのは女神アラストルだった。そのアラストルと同タイミングで会場入りしたのは、オーディーンである。
「アラストル、君の正体は…」
オーディーンは何かをアラストルにぶつけたのだが、彼女が表情を変える事はなかった。仮に変えたとしても、バイザー越しの表情を確認する手段はない。
「あのコンテナは…?」
西雲が追っていたのは、1台のコンテナを積んでいる専用車両である。この車両にハスラー・ナインが積まれたのは確認したのだが、その後の流れは確認できていない。
「あなたが、ハスラー・ナインに興味を持っていたとは―」
コンテナ車を追跡していた西雲の目の前に現れたのは、何とナツキだったのである。
「アレの中身を知っているんですか?」
「知っていたとして、話すと思う?」
どうやら、ナツキは中身を知らないようだ。それを知った西雲は…。
「ハスラー・ナインの正体は、AI制御をされているロボットよ。あの機体は、音楽業界を混沌へ導こうとするイレギュラーの存在を排除する為に作られた物―」
アカシックレコードの記載されたサイトにも似たようなAI制御型のガーディアンに関する記述があった為、その話を餌に本当の事をナツキから聞きだそうと考えていた。
西雲とナツキがハスラー・ナインのコンテナ車を追跡していた頃、第5ステージが開始したのだが…。
「どういう事だ…?」
プレイも中盤に差し掛かった頃、突如として数秒間ほどバルムンクと22位のプレイヤー、カシムのスターダストシステムが急にダウンしたのである。ダウンしたのは2秒程だったのだが、バルムンク以外の2名は2秒でも致命的だったらしく…復帰して直後に体力ゲージはゼロになり、リタイヤとなった。
『どうした事でしょう。バルムンクを含めた3名のスターダストシステムがダウンしたようです。これは一種のトラブルでしょうか?』
トラブルではなく、意図的なジャミングと感じていたのはグングニル、エイジ、ジェネラルの3名だった。
【まずはプレイに集中しよう。原因を考えるのは後だ】
グングニルはショートメールでエイジとジェネラルに文章を送り、今はプレイに集中するべきと指示をする。エイジとジェネラルも、その意見には賛成したらしく、即座に何かを調べる事もなく、バトルに集中した。
「どうやら、超有名アイドルが意図的にスターダストを…」
バルムンクは、超有名アイドルが自分達に都合の悪い存在を全て抹殺しようと考えているのでは…と思い始める。
「怒りにまかせたプレイスタイルは、全てを狂わせる。それこそ、超有名アイドルの思う壺だ!」
エイジは全長5メートルにも近い大型パルスキャノンをコンテナから展開、それを連続発射する。この手の大型キャノンはスターダストでは速射出来ないタイプと言われているはずなのだが…?
【再びオーバーテクノロジー投入か?】
【これが本当の限界を超えた力なのか…】
【スターダストにはオーバーテクノロジーと間違う物もあるのだが、ここまで違うとは…】
ネット上でも、エイジの使用したパルスキャノンが常識の通じない代物である事を物語っている。
そして、蓋を開けてみると結果は予想外の物となっていた。
・第5ステージ結果
1位:剣咲エイジ
2位:バルムンク
3位:グングニル
4位:ジェネラル
今回の結果を受けて審議もあるのでは…と思われたが、特に審議は行われない流れになった。これには複雑な事情があるようだが…。
それから30分後、第2回戦の組み合わせ抽選が決まった。
『当初は1対1のデュエル方式を予定していましたが、時間の関係上で前回ラウンドと同じ5人形式のバトルロイヤルで行う事になりました。決勝は、1対1で行いますので―』
周囲も慌ただしくなったのか、5人形式バトルロイヤルに変更されたようだ。これが、どんな意図で変更されたのかは不明である。
・準決勝戦
第1ステージ:プラチナ・エビル(29位)、女神アラストル(12位)、オーディーン(2位)、ラファエル(11位)、ハスラー・ナイン(16位)
第2ステージ:セラフィム(6位)、剣咲エイジ(1位)、西雲隼人(10位)、疾風ナツキ(7位)、グングニル(4位)
『2位通過のバルムンク選手ですが、武器のシステムトラブルにより棄権となり、グングニル選手が繰り上げで準決勝へ進出しております』
司会からバルムンクが2位通過を果たしたが、本人の希望で棄権をした事が告げられた。特にブーイングが飛ぶような事はなく、グングニルが繰り上げで準決勝へ進出するとの事で拍手が送られた。
###
準決勝開始まで10分と言う所でメンバーが揃い、第1ステージが始まろうとしていた…。
【結果は見えているな】
【このメンバーだとオーディーンの勝利は決まりか?】
【他のメンバーも油断はならない。特にハスラー・ナインは…】
色々な意見が飛び交う中、勝ち残ったのは予想外の人物―。
「そんな馬鹿な事が―」
バトル途中でアーマーも破壊されたプラチナ・エビル…。その正体は、何とワンウェイプロの社長だったのである。更には、女神アラストルも超有名アイドルの現メンバーである事が判明する。
【やっぱりな】
【これも全て、超有名アイドルって奴の仕業なのさ】
【じゃあ、ハスラー・ナインの正体は何なんだ?】
【更に言えば、ラファエルも正体不明だな。スーツの外見等を見る限りでは女性だと思うが―】
ネット上ではハスラー・ナインがあからさまに怪しいという流れだったのだが、プラチナ・エビルの方が正体を現した事でハスラーの疑惑は晴れた。
「ラファエル…偽名だったのか」
オーディーンがメットが破壊されたラファエルを見て、驚きを隠せなかった。
「状況はオーディーンと同じだと思うが―」
アーマーをパージする事無く、ラファエルは会場を後にした。
『オーディーンとハスラー・ナインによる同点決勝を行います!』
司会から告げられた事実は衝撃的な物だった。何と、オーディーンとハスラー・ナインが同点となったのである。他に残ったのは、ラファエルのみで残り2名はライフ0でリタイヤとなっている。
「ハスラー・ナイン。一体何者なんだい?」
《音楽業界を混乱させるだけの存在であるお前に、それを語る必要はない》
「僕も超有名アイドルと同罪って訳か。確かに、僕は超有名アイドルのやり方が気に入らない。彼らのやり方は、自分達が良ければ何をやっても良いと言う事だろう。音楽業界の未来を考えるならば、彼らを完全排除して全ての世界線から存在を抹消すればいい」
《確かにファンクラブの暴走や芸能事務所の無尽蔵とも言える資金を利用した超有名アイドル押しは、音楽業界にとっては百害あって一利なしと言う状態だろう。しかし、それが事実であったとしてもお前がやっている事が正義とは到底思えない》
「結局、僕もイレギュラー扱いか。音楽業界の為を思っての行動も、最終的には悪と断定されるのか―」
《音楽業界の為を思うのであれば、正々堂々と音楽で勝負をすればいい。お前のやっている事は、まとめブログ大手と同じ―》
「僕は彼らとは全く違う。彼らは目先の利益を求め、それが後に大事件になろうと放置し続け、最終的には自分達が都合のよい世界に作り替える為に暗躍する。僕は彼らとは全く違う―」
《その発言は理解できない。私は、音楽業界の未来を揺るがすイレギュラーを全て排除する為に生まれた。超有名アイドルも抹殺すべき存在だが、オーディーンも同じ―》
「平行線か。なら、君をスクラップにしてあげるよ!」
《出来る物なら、やってみるがいい!》
オーディーンとハスラー・ナインの問答は平行線に終わった。お互いに音楽業界を思って行動しているのは同じだが、その手段は全く違う物だったというのもある。
同点決勝は、サドンデスマッチ。どちらかがスコアで勝利するまで勝負は続く。しかし、その決勝は思わぬ形で妨害される事になる。
サドンデス開始直前、何者かの遠距離射撃でハスラー・ナインが突如として機能停止したのである。何処かを撃ち抜かれた訳ではなく、何かが取りつけられたように見えるのだが…。
「どういう事だ?」
オーディーンがハスラー・ナインに近づこうとした時、周囲からスモークが発生し、気付いた時には既に姿は消えていた。
「もしかすると、彼の正体は…?」
ハスラーの正体に関して、オーディーンは何か疑問に抱くような部分があった。喋り方が機械的と言うのもあったが…。
第2ステージも第1ステージ同様に、何かの妨害があるのでは…と思われていたが、それは杞憂に終わった。
【超人プレイが飛びだし過ぎだろ?】
【エイジのスキルが異常過ぎる。本当にスターダスト初心者なのか?】
【作曲家兼プレイヤー、スタッフ等が揃っている中で、あの実力とは―】
【彼のスーパーウェポンは未知数だな】
【あの時に見せた射突式ブレードも凄かった―】
決勝に進んだのは、何とエイジだったのである。なみいる優勝候補を抑えて、彼が勝ち進んだ事には衝撃度合いが大きい。
午後4時にエイジとオーディーンの決勝が行われる事が告知された。その間は休憩時間と言う事になる。
「あなたに話がある…」
私服に着替えていたナツキの目の前に現れたのは、ポニーテールに赤のインナースーツ、ボディラインも強調され、胸のサイズも若干だがナツキより…。
「私は、あなたに見覚えが―」
急いでいた為、慌ててスパッツを穿くナツキ。そんな彼女に見せたのは、1枚の写真だった。
「もしかして…ラファエル!?」
ナツキも彼女がラファエルだと知って驚きの表情を見せる。ラファエルは西雲にも同じ事を話した事を伝えた上で…。
「ハスラー・ナインの正体は、あなたたちの予想よりも―」