カウントダウン-Countdown-
※ピクシブ版と微妙に変更している個所が今回もあります。
衝撃の課題曲発表から数週間が経過し、6月になろうとしていた…。
「1曲目でスコアが出ないならば、この曲を選ぶまでだ!」
多数のプレイヤーが玉砕を覚悟で上級者向け楽曲に特攻し、スコアが思うように出ないと言うスパイラルが続いている。予選期間内であれば何度でも再トライ可能、スコアも一番高い物が優先されるのだが…。
【GUNGLIR:7650000PTS】
ネット上及びアンテナショップに置かれたスクリーンに映し出されたスコアを見て、誰もが驚愕したのである。
「あれを超えると言うのも無茶な話か」
「1曲目で10000000点を取ったとしても、2曲目でこの状況では―」
「既に2曲目で勝負をかけているプレイヤーにとっては、焼け石に水か」
優勝候補筆頭であるグングニルが出したスコア、単純に765万点だった場合には驚く程のスコアではない。彼の場合は1000万点も終着点ではないからだ。
「あの曲で出したスコアだとしたら、勝ち目がなくなるのも時間の問題か」
「曲名を見たら―」
何と、グングニルがハイスコアを出した曲とは…。
《破滅へのロンド【BLACKANOTHER】:オーディーン》
最近になって解禁条件が緩和されたオーディーンの新曲、しかも難易度は隠し難易度である【BLACKANOTHER】だったのである。
「冗談はやめてくれ。ブラックアナザーと言ったら、ノーマル、ハイパー、アナザーの3段階難易度よりも上のランクで、超上級者御用達の難易度じゃないか」
「そうなると、上位ユーザーは1曲目の1000万点は当たり前で、2曲目はブラックアナザー祭りになるのか?」
「超有名アイドル2曲でプレイしているプレイヤーが涙目の展開じゃないか?」
現実でもネット上でも、グングニルが叩きだしたスコアに関しては『他のプレイヤーが涙目』等の意見が圧倒的だった。
一方で、芸能事務所の入ったビルで途中結果を見て驚いている男性がいた。
「何と言う事だ。これでは、当初の目的とは違う意味で目立ってしまうではないか!」
この状況に納得のいかなかった人物は、ワンウェイプロの社長である。まさか、超有名アイドルの曲を課題曲の1曲目にねじ込んだものの、違う意味で反応を受ける事に関しては予想外だったからだ。
「このままでは話題を提供しただけで終わる可能性も否定できない。何としても、別の策を打たねば―」
そこで考えたのは、決勝における―。
グングニルが予想外のスコアを達成してから、わずか24時間後、今度は優勝本命とも言えるバルムンクが新記録を樹立した。
【BALMUNK:8760000PTS】
この間、グングニルも800万点台まで詰めているのだが、それを突き放したような計算である。
《HADES【BLACKANOTHER】:アンノウン》
この曲は、プレイしている途中からBPMが上昇したり、あるエリアで減速したりと言うスターダストでも難関の曲になっている。しかも、この曲に関しては未だにフルコンボの類が1人も出ていない。文字通りのハデスなのである。
「HADESだと…」
「この曲は、未だにフルコンボも出ていない楽曲じゃないのか?」
「1曲目でパーフェクトを出せたとしても、これは上位陣に勝つのは無理だな」
「2曲目にブラックアナザー必須の展開では、ハイレベルにも程があるだろう」
「上位に残るのは、初期の上位プレイヤーか動画サイトでも知られる有名プレイヤーのみか―」
もっと衝撃的なニュースは、グングニルが記録を更新したわずか30分後に起こった。
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【NATSUKI:9050000PTS】
優勝候補バルムンクのスコアは、30分弱で疾風ナツキに破られる結果となった。しかも…。
《ゲートオブバビロン【ANOTHER】:アンノウン》
スコア更新は、ブラックアナザーの1段階下の難易度であるアナザーで出されたスコアだったのである。そのスコアがバルムンクを越えた理由は…。
「フルコンボか!?」
「この曲のフルコンボは指折り数える位しかいないんだぞ」
「ゲートオブバビロンのブラックアナザーは存在しないが、まさかアナザーでフルコンボとは―」
「考えて見れば、上位陣の曲は全てプレイレベル15より下の曲がない…」
「滑り込みでレベル20オーバーがでなければいいが…」
それ以上に想定外ともいえる事態に発展したのは、疾風ナツキがスコアを出してからわずか2時間後の事である。
午後10時、スターダストもナイトゲームと言われる深夜プレイに突入する時間帯になった。この時間帯では、20歳以上のプレイヤーではないとスターダストはプレイ出来ない。場所に関しても、アンテナショップや防音設備の整っているエリアに限定される。
【やっぱり予想通りの事態が起こったか】
【スコア的に怪しいと思っていたが―】
【超有名アイドルファンは、ここまでやるのか?】
ネット上が騒ぎ出したのは疾風ナツキのスコアを30分後に更新したプレイヤーの事である。その後、彼のスコアは審議対象になったのだが、1000万点+αだった事に不信感を抱いたプレイヤーが報告したのだろう…。そして、最終的に出された結果は不正スコアによる失格処分だった。
【本来であれば、全ての楽曲で1000万点が理論値と言われているが…1000万点+αなんて言ったら、プレイレベル20オーバークラスの曲ではないと存在しない】
【つまり、何らかの不正を行って1000万点+αを申告したのか】
今回の不正スコア報告の一件を受けて、2曲目にも超有名アイドル楽曲を指定したプレイヤーに関しては不正スコアの有無を調べられる事になった。この影響もあって、最終的にはスターダストオリジナル楽曲か他機種移植楽曲がランキングでも独占する事になった。
翌朝の土曜、この話を聞いたワンウェイプロの社長は…。
「他のアイドルファンが余計な事をした影響で、こちらまで被害が出るとは…」
超有名アイドルと言うとワンウェイと別の大手だけを指し示す単語のように見えるが、実はネットの方では3次元アイドルで一定の条件を満たしていれば超有名アイドルと認められるような流れになっている。
「当初の計画が潰される前にファンには行動を自重してもらうべきか…逆にファンの行動を縛るのも逆効果か」
社長が考えていた計画を実行する前にファンに下手な行動を起こさないように自重をしてもらう事も考えたが、社長が圧力をかけたように思われるのはイメージを損なうだけではなく、超有名アイドル反対派の勢いを付けるだけなのでは…と考えていた。
その一方で、ワンウェイプロとは違う別のアイドルファンが集まる掲示板では…。
【上手くいったようだな】
【これで、ワンウェイプロは近い将来に芸能界から追放される】
【超有名アイドルは、我々だけで事は足りる。ワンウェイは邪魔な存在でしかない】
他にも他の超有名アイドルとにたコンセプトを持つアイドルグループも片っ端から潰すべく、彼らが暗躍していた。しかし、この書き込み等は既にある人物に発見されてしまっていたのである。
「なるほど…。結局は、2強時代を絶対神である1強時代に変える為に動いていたと言う事か…」
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予選も大詰めという状況になった日曜日、ここで予想外の出来事が起こったのである。
「超有名アイドルを締め出そうとしているスターダストを―」
「日本には経済不況を救った超有名アイドル以外はいらない!」
「超有名アイドルこそ、日本経済を救った神であり、神話的存在なのだ!」
野球の練習をしようと公園を訪れたチームの監督が動画サイトへアップしたこの動画は…瞬く内に10万再生を記録したのである。
【遂に超有名アイドルファンが暴走したか】
【彼らの『日本経済は超有名アイドルが救った』という神話にも疑問が残る部分は多かったが…】
【超有名アイドルファン=転売屋という図式は火を見るよりも明らかだったと言う事か】
【超有名アイドルが3次元で存在する事自体、大きな矛盾があった。この映像は、それを事実とする証拠映像である】
【所詮、彼らは鍍金アイドルだったと言う事か】
【この映像自体、偽物と言う可能性も…】
【映像に関しては、鑑定待ちか?】
この動画に関するコメントは1万以上にも及び、半数近くが超有名アイドルが鍍金アイドルだったと言う事実に驚いているコメントだった。それ以外にも映像が偽物であると言う者もいれば、これ自体が他の勢力に利用されている可能性も…と言うコメントもあった。
「コメントの中には、誘導コメントも混ざっている可能性がある。慎重に行動したい所だが―」
実際に動画を見ていた西雲はコメントのいくつかに、別勢力へ誘導をしているかのような物もいくつか混ざっている可能性を考えていた。
午前10時、直前になってスターダスト側が出した決断。それは―。
《今回の課題曲になっている1曲目のスコアに関しては無効と判断し、自由選曲のスコアのみを対象にする》
突然の仕様変更に驚くプレイヤーも多かったが、ここ数日に出されていた不正スコアの量を考えると妥当な判断だった。
【やはり、あの量では弁解不能か―】
【超有名アイドル2強による潰しあいが、まさか自分達の首を絞める結果になるとは予想していなかっただろう―】
正当なスコアを出しているプレイヤーがいる事も事実だが、8割近くが2曲目の自由選択でも超有名アイドルの楽曲で不正スコアを出している事実は、スターダストサイドにとっても致命的と判断したようだ。
【例の集会だが、警察が一斉摘発に出たようだ。超有名アイドルファンの過激派リーダーも逮捕された事で、日本における超有名アイドル市場も大幅縮小されるのは確実だろう】
【月曜日には、既に水面下で準備していた超有名アイドル関連規制法案を国会で可決させるようだ】
【ここまで展開が素早いと、逆に余地をしていたようにも見える展開だな】
ネット上でも水面下で起こっている出来事が超有名アイドルを完全に締め出し、現在の音楽業界を完全にリセットして出直しを図るような流れになっているのでは…と考えるユーザーが半数以上を占めていた。
金曜日、スターダストの予選スコアトライアルが大詰めを迎えた事でネット上も大盛り上がりを見せている。
【今週は音楽業界にとっても変革を求める週になった】
【一連の規制法案で、今度こそ音楽とは何か…という基本に立ち返って欲しい所だ】
【本来ならば、このような規制法案は必要ないはずだったのが…】
スターダストが盛り上がりを見せる一方で、超有名アイドルファンの過激派などが大量に逮捕されたことが発端になった超有名アイドル関連規制法案…この法案は月曜日にスピード成立し、翌日から実行されると言うハイスピード法案となった。
「やはり、他の世界線と同じような超有名アイドルが衰退する未来となった―。ファンが暴走を続けた結果が破滅を導いた…と自覚をすればいいが、無理な話か」
一連の経過を見ていたオーディーンは、自分が反旗を翻す事もなく超有名アイドルが自滅していった事に対して不満を持ちつつも、これからの音楽業界が再生していけば何とかなるのでは…と思っていた。
「この世界も超有名アイドルが絶対悪という世界と判定された。対話や共存を選んだ他の世界と違い、どうして破滅を選んだのか…」
同じく、一連の経過を見ていたセラフィムはオーディーンや一般的なネットの反応とは違う事を思っていた。状況によっては対話のテーブルに立つ事も、他のジャンルと共存できる道もあったはずなのに、彼らはどうして破滅を選んだのか…。
「アカシックレコードを見たと言うオーディーンの言うように、超有名アイドルは衰退して新しい音楽業界が生まれるのか? 再び、過ちは繰り返すのか…」
音楽業界の改革が始まったとしても、同じような勢力が入りこむような事になれば、結局は改革後も違う芸能事務所による超有名アイドルの独占市場になってしまうのでは…と懸念を抱いていたのはナツキだった。
「これで、暴走した一部勢力は封じ込める事に成功したか…。後は、スターダストを悪用しようと画策している組織が動くのを待つか、あるいは―」
ミスター・スターダストは一連の超有名アイドル関連規制法案に関して明言を避けたが、暴走したファンを対処する為にも止むえない処置と思っているようだ。その一方で、別組織の存在と動向を警戒していた。
「本当の音楽―音を楽しむ為のスターダスト」
超有名アイドル関連規制法案に関しては無関心だったが、今の音楽業界には音楽が本来持ち合わせているべき物が存在しない…と考えていた。そして、スターダストが本来の音楽を―。
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土曜日、予選スコアトライアル最終日、北千住で行われる事となった最終日の大型イベント、そこには多数のスターダストファンが集まっていたのである。
【果たして、滑り込みで何人が勝ち残るか…】
【本戦は日曜からだったな】
【2曲とも自由選曲に変えて大丈夫だったのか?】
【自由選曲で、スターダストオリジナル楽曲か他音ゲーからの移植カテゴリー限定…。この変更が吉と出るか凶と出るか―】
【今の所は疾風ナツキがトップだが、それ以外のメンバーが接戦になっている気配がする。勝ち目はあるかどうか別として】
北千住駅に置かれている70インチ以上はあると思われる大型ディスプレイ5台には、それぞれのゲームセンターなどの中継映像が映し出されていた。
「スコアトライアルも終了の午前0時まで、残り12時間となりましたが―」
司会の男性が言うには、トライアル終了は日曜に変わった午前0時と言う事らしい。残り12時間で何人のプレイヤーが本戦に進出できるのか。
【上位10人は揺るがないな。予選に残れるのが何人かによるが】
【当初は2万人はエントリーしていたが、一連の不正スコアの影響でかなりの人数が無効扱いとなってエントリーやり直しになったと言う…】
【正確な数字は、改めて集計し直しと言う事か?】
【おそらくは、ナツキのスコアを破ることは不可能と判断して辞退したと言うのが大半だろう。前回の参加人数である2000人を超えればよい方だが…】
ネット上では色々な意見が飛び出していた。一連の不正スコアの件やナツキのスコアの事もあってか参加人数は少なくなるのでは…という意見が多い。
イベントが始まって30分足らずで歓声が響く。
「何だ、あのスターダストは?」
「人が扱えるようなサイズなのか?」
「サイズ規定はクリアしているとはいえ、動かすのが大変そうだ―」
中央のモニターに映し出された男性は、西部劇を思わせるマントにテンガロンハットと言う外見にチェーンソーをトンファーにしたような大型スターダストを2つ装備していた。
「あっちの装備もおかしいだろ?」
「あの剣で800万点台を叩きだすなんて、スターダストのプレイヤーは超能力者揃いなのか?」
右のモニターでは、怪盗を思わせるような仮面に策士のような外見をしているが、明らかに細身の男性が剣を振り回しているように見える。
「良く見ろ、あれは剣と言うよりは鞭だ―」
彼の持っている剣は、実際には鞭のように振り回す事も出来る蛇腹剣だったのである。それを汗ひとつ見せる事無く振り回す彼こそ、優勝の本命候補と言われるバルムンク…。
「今度は手裏剣…いや、アレはファンネルか!?」
左のモニターでは、ヒモに近いようなハイレグ水着、ロボットアニメで良くありそうなデザインのメット、外見はムチムチと言う女性が無線式のブレードのような物で的確にターゲットを撃破していく。
「あれで殺傷能力が皆無と言っても通じないレベルだな。外国の軍隊が見たら、その技術を流用して兵器が作る事の出来る位のオーバーテクノロジーだからな」
各会場、ゲーセン、アンテナショップ等の中継映像では一般常識が通じないレベルに達しているスターダストを扱うプレイヤーの姿が次々と映し出されていた。
「今度こそ…上位陣に追いついて見せる!」
ある決意をして草加のアンテナショップに姿を見せたのは、エイジだったのである。モノクルはそのままだが、蒼いマントに右腕には特殊なガントレットを装備していた。
【ODIN:9450000PTS】
エイジがプレイを始める少し前、オーディーンと思わしきプレイヤーのスコアが更新された。この人物が更新したのは、2曲目の選択曲―。
《破滅へのロンド【ANOTHER】:オーディーン》
何と、オーディーンは自分が作曲した曲をトライアルの選択曲でプレイしていたのである。周囲からは反則なのでは…と言う声もあったがルール上では反則には当たらない。
【反則扱いになるのは不正スコアが続出した超有名アイドル楽曲のみで、他の楽曲は問題はない。作曲者本人が自分の曲を選ぶのが反則ならば、ナツキも対象に入るだろう】
【ナツキがプレイした曲は確か…】
ネット上では、オーディーンの行為が反則なのでは…という流れから何故かナツキの名前が浮上した事で、周囲も頭の上に?マークが出てくる状況になっていた。
【ナツキが1曲目の自由選択したゲートオブバビロンは、曲の名義こそアンノウン名義だが…実際の作曲はナツキだ。2曲目はナツキの曲で名義で間違いはないが…】
【自分の作曲した曲をプレイするのが問題ないのか…。では、譜面と言うかステージ担当に関してはどうなるんだ?】
【ステージ担当に関しても問題はないだろう。前回の参加者の中にはプレイしたのが持ちステージではないが、ステージ担当の人物が参加した事はあった】
【スターダストを知り尽くした人物でも、予選で有利になるとは限らない。実際、そう言った事例は何度も目撃したはずだが―】
そんな中で、エイジが選曲した曲は…。
《破滅へのロンド【ANOTHER】:オーディーン》
【彼が最近になってBランクに昇格したとはいえ、これは無茶過ぎる】
【まさか…?】
【どういう事なの?】
選曲したのは、何とオーディーンの選曲した曲と同じ破滅へのロンドだったのである。これには、ネット上でも無謀という意見が多かった。
【あの曲はAクラスでもクリア出来るのがやっとという人物がいると言うのに―】
【Bクラスに昇格したてのプレイヤーが選曲する曲ではない】
【これは途中で落ちるのが目に見えている…】
半数以上は、エイジが途中で演奏失敗をするのでは…という予想だった。