スターダスト・プラン-Stardust plan -
『ようこそ、スターダストの世界へ』
カードを購入後、ライトセイバーにあったカードを読みこませるタッチパネルにかざすと、女性声のシステムボイスが流れたのである。
「まずは、君のエントリーネームを入力するんだ。アルファベット、平仮名、カタカナ、数字を使えるが…ネームによっては弾かれる可能性がある―」
剣咲エイジの隣にいるのは、セラフィムという名前のスタッフである。彼の提案で、エイジとカシムはスターダストで勝負をする事になったのだが…。
「これで、よし―」
エイジはネームエントリーを済ませた。名前はアルファベットでEIJI…特に弾かれるようなことはなく、エントリーは完了した。
『ランクはEからのスタートになります。上位ランクを目指して頑張ってください―』
その他にも使用するスターダスト、装備アイテムに関してのチェックがあったが…手持ちのライトセイバーは弾かれなかった事から正規品である事が確定した。
「弾かれなかったという事は…あの噂が本当と言う事か」
一連の様子を見ていたカシムは、エイジが手にしたスターダストが試作型で間違いないと確信した。
(ならば、試作型にまつわる噂も―)
カシムは試作型を奪う事が出来れば、自分よりも上にいる上位ランカーと呼ばれるメンバーも一気に抜く事もたやすい…と考えた。
『まずは、出現するターゲットをスターダストで撃破するんだ。剣タイプの場合は、ターゲットに向かって剣を振れば―』
チュートリアルの説明を受けながら剣を振るエイジだが、思ったようにターゲットに命中させる事も難しかった。実際にプレイするのでは、見ているのと全く違う事の証明である。
(自分が出来る限りのアドバイスをするべきなのか…)
エイジのプレイスタイルを見たセラフィムは、現状で可能な限りのアドバイスをするべきなのか考えた。
(しかし、自分のメイン武器は彼とは全く違う。それを仮に踏まえたとして、あの状態で10段コンボ等を教えても…?)
セラフィムはスターダストのスタッフでもあるが、初期プレイヤーでもあった。スタッフ権限で、そこまで教えても良いのか…と言うよりも上級者目線で初心者に物を教えても良いのか…という悩みがあった。
(やはり、チュートリアル等をプレイする時間を与えたと言う事は…向こうが何か企んでいると考えるべきか)
一方で、カシムがチュートリアルのプレイ時間等を与えたと言う点も気になっていた。もしかすると、罠なのでは…と。
30分が経過し、エイジの方も若干だがプレイ感覚がつかめてきたように見えた。ランクに関してもFランクから一気にDランクへと上昇しているのを見て、セラフィムも何か確信を得たようでもあった。
「この辺りでいいだろう。このプレイが終了したら、次は―」
セラフィムがエイジにプレイを切り上げるように指示をする。どうやら、次がカシム戦になるようだ。
「まさか、あの短時間でDまで上昇するとは…。普通のプレイでは攻略法の分からないプレイヤーでも、Dへ昇格するのに大体10プレイはかかるが―」
カシムはエイジが5プレイで一気にDランクまで昇格した事に、何か引っかかるような物を感じていた。FからEに関しては1プレイですぐに昇格が可能だが、EからDとなると一定の経験値が必要になる。
「ルールの方は分かっているな。選曲はお互いに1曲のみ。どの曲を選ぶかはプレイヤーの自由だが、ランク制限のかかっている曲は選べない―」
カシムがルールの確認を行う。曲に関しては、どの曲でも選択可能になっている。しかし、プレイヤーのランクによっては選曲出来ない楽曲も存在するようだ。
「こちらも特に問題はない。既にプレイする曲も決まっている―」
エイジが曲を選曲しようとしたが、該当曲を選ぼうとした途端にエラー文が表示された。
【この難易度は、自分が未解禁の為に選択は出来ません】
どうやら、難易度の選択をミスした為にエラーが出たらしい。難易度をノーマルに選択する事でエラーは解消された。
「この曲か…。こちらが先攻を引き当てると不利だが…」
カシムはエイジが選曲した曲名を見て、何かの不安を抱いていた。自分の選曲した曲の難易度はノーマルよりも上のハイパーだが、エイジが選曲した曲よりは難易度が低い。
「なんてことだ。先攻は自分じゃないか―」
コンピュータによるランダムで先攻と後攻が決められるのだが、先攻はカシム、後攻はエイジとなった。
「最初の楽曲は、これだ!」
タイトルは詳しく見ていないが、超有名アイドルの楽曲であるのは間違いなかった。この曲のアーティスト部分が《カバー》と書かれていたからだ。選曲者はカシムである。
「ハイパーのレベルは4。エイジの選曲した曲はノーマルで7…。カシムがスキルで圧倒するか、エイジが選曲部分で有利と見るか―」
セラフィムは現状ではどちらが勝ってもおかしくはない…と予測していた。
「俺の動きについてこられるか!」
カシムがハンドガン型のスターダストを構える。そして、秒間20とも言えるような連射で次々とターゲットを撃破していく。一方のエイジはと言うと…。
「さっきよりも動きが落ちているように見える…」
エイジの使用しているのが近接型と言う事で、ターゲットに接近しなければいけないというデメリットが存在する。その為か、動きが距離が近いターゲットから破壊しているように見える。
遠距離型のカシム、近接型のエイジ…二人のスコア差は広まっていくばかりだった。そして、演奏終了後のスコアは―。
「これが、実力の差と言う物だな」
カシムが勝ち誇るのも無理はない。ターゲット撃破率100%に対し、エイジは80%という差が出来ていたからだ。途中では40%以上の大差が出来ていたのだが、終盤で何とか追い上げたエイジが20%差まで詰めたのである。
「運動量は従来の音楽ゲームをはるかに超える。油断をしていると、プレイ中に倒れると言う事も考えられるからな」
セラフィムが近くの自動販売機からスポーツドリンクを購入し、それをエイジに手渡した。自分用にはコーヒーを買ってきたようだ。
「どうして、こんなにもしてくれるんですか?」
汗まみれになっていた身体をタオルで吹き取ったエイジは、セラフィムがスターダストを提供しただけではなく色々と手助けをした事について疑問を抱いていた。
「気まぐれ…では理由にはならないかな?」
「もう少し具体的に教えてください」
セラフィムが話題をそらそうとしたが、エイジはその手には乗らないとばかりに反撃した。
「簡単に説明すれば、テストプレイヤーが欲しかった…と言う所かな。それ以上は口止めされている以上、この場では言えないが―」
セラフィムが話題をそらそうとした理由、それは上層部等からの指示による物だったかもしれない。そう思うと、エイジは少し悪い事をしてしまったのでは…と思った。
「もう少しアドバイスを…と考えていたが、今の君では余計に混乱させてしまうだろう。そう言った事もあって、具体的な事は控えていたんだ」
その話を聞いたエイジは少し首をかしげた。
「首をかしげたくなる理由も一理あると思うが、こればかりは自分で切り開くしかないんだ。最低限のシステムに関してはアドバイス出来るが、自分のプレイスタイルを揺るがせるようなアドバイス出来ない」
「それが、動画サイトでもあった超人プレーですか」
「確かに、一連のプレーがスターダストに影響を与えたのは言うまでもない。しかし、あれはヒントを参考にして自分で編み出した物が半数だろう」
「どうして、あのプレーをアドバイス―」
エイジは動画サイトの超人プレーのやり方について、何故アドバイスしなかったのかを聞こうとしたが…休憩時間は終了に近づいていた。
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「まさか、あの楽曲を選ぶとは…。例の超人プレー動画に影響されたか」
「例の超人プレーを見て選曲したならば、まだいい。問題は、あの作曲者ファンかどうかだろう」
周囲のメンバーもエイジが選曲した曲について、この曲が来た事で不利になるのでは…と話題になっていた。余談だが、この場にはギャラリーは不在で無観客試合に近い雰囲気である。
「あの曲を選んだのは、動画が影響しているのか?」
セラフィムはエイジが例の楽曲を選んだ理由を聞こうとしていた。
「確かに動画の影響は全くない…と言ったら嘘になります。この曲を選んだのには、もう一つの―」
理由がある…と言おうとしたエイジだったが、既に演奏開始10秒前になっていた。
《スターダストプラン ナツキ》
曲名の下にはアーティスト名があり、そこにはナツキと表示されている。カシムの選曲した曲はカバーの為、アーティスト表記はなかった。
「ナツキ…? 何処かで聞き覚えのある名前だが―」
セラフィムはナツキと言う名前を見て、何処かで聞き覚えのある名前であるのだが思い出せずにいた。
「やっぱり…。超人プレイヤー、疾風ナツキのスターダスト参戦曲か!」
カシムは、アーティスト名を見て激怒とも言えるような表情を見せた。疾風ナツキ、彼女はスターダストの超人プレイヤーという肩書とは別に作曲家という肩書も所持していたのである。
「やっぱり、あの【疾風ナツキ】ですか?」
カシムのメンバーも、やっぱりという表情を見せる。実は、過去に同人ゲームの作曲も何回か担当しており、今回のスターダストプランと言う曲が事実上のプロデビュー曲でもあった。
「俺にいい考えがある―」
あるメンバーの一人が、どう考えても死亡フラグを思わせるような発案を考えていた。
「疾風ナツキ、彼女のプレイは非常に危険すぎる。彼女の真似だけは、間違っても―」
セラフィムの声がエイジに聞こえているかどうかは定かではない。しかし、セラフィムが懸念しているのがナツキの超人プレーに限った事ではないようだが…?
流星が降り注ぐような曲のAパート、ターゲットも文字通りの流星と同じ状態になっていた。無数のターゲットが降り注ぐように現れ、両者を苦しめる。
「やはり、この曲を後攻でプレイするのは不利か!」
カシムの選曲した曲よりもターゲット数が圧倒的に、この曲の方が上である。レベルの関係上とも言えるかもしれないが、それ以上に難しいのは別の理由があった。
「遠距離タイプよりも、接近戦タイプが有利とは…」
「遠距離では武器によって装填やチャージ時間が長い。着弾後に広範囲をフォローできる武装ではない限り不利だ」
他のメンバーがつぶやく通り、この曲は遠距離タイプではターゲットの出現位置等の関係で圧倒的と言う訳ではないが不利な状況になる。逆に、近接や近距離と言うタイプが間合い的な意味で有利となる。
「この辺りを把握して選曲していたのか…。あのエイジと言う人物、只者ではないか―」
セラフィムは、単純に動画に影響されて選曲したのではなく、自分の使用している武器に合わせて選曲したのだと言う事に気付いた。
「このままでは…負ける?」
「下手をすれば、前半の貯金を使いきってしまうぞ?」
「こうなったら―」
メンバーの何人かがカシムの元を離れた。何かを考えているのか…とセラフィムは思ったが、放置する事にした。
「悪いが、これ以上は…」
「全ては超有名アイドル存続の為―」
「今、日本経済を支えている超有名アイドルが消える事は―」
カシムの部下が数名、エイジの目の前に立ちふさがり、プレイの妨害を始めたのである。本来は、プレイ中に乱入する事はルール違反になるのだが…?
「ハプニングはスターダストに付き物だ…」
カシムが弓とは違うスターダストをエイジに突きつける。このままでは…とエイジが思った瞬間、ふしぎな事が起こったのである。
「バカな―」
「奴が来るなんて、聞いてないぞ…」
「所詮、俺たちはかませ犬だったのか!」
そこに響き渡るは、メンバーの断末魔だった。カシム本人も状況を把握できていない。一体、どういう事なのか…と。
「スターダストを超有名アイドルの宣伝に悪用しようと考える連中を…私は許さない!」
カシムのメンバーを全て撃破したのは、日本刀に巫女を思わせるような外見の女性だった。ちょっとした隙間からサラシのような物も見える気配もするが…。
「邪魔者は掃除したわ。後は、あなたの実力次第ね…」
そう言い残して、彼女は何処かへと消えてしまった。その状況を見ていたカシムは…。
「おのれ、疾風ナツキ…」
彼女こそが、あの超有名プレイヤーでもある疾風ナツキだったのである。
ハプニングがあったが、何とか2人のプレイは終了した。蓋をあけて見れば1曲目でカシムがリードしていた状況を、2曲目ではエイジが逆転すると言う展開になっていたのである。
「最終的には―」
2曲のスコアを合計した総合結果は、カシムも驚くような結果だったのである。
「200点差…だと?」
何と、エイジが2曲目で1曲目のスコア差を埋めただけではなく、200点差と言う逆転勝利をしていたのである。
「予想外の妨害はあったが、初バトルとしては上出来だった方か―」
セラフィムがエイジを励まし、そのまま立ち去ろうとしていた。
「これは、どうすれば…」
エイジは試作型のスターダストを彼に返した方が…と思った。
「それは君が持っていると良いだろう。どちらにしても、スターダストを買いに行く予定だったのだろう?」
セラフィムの言葉もその通りだが、これだけの物を無料で受け取る訳には…。
「どうしても、それを返したいと思ったら…近く行われるバトルロイヤルに参加すると良い」
「バトルロイヤル?」
「そこではナツキをはじめとした実力者が多く集う。君がバトルロイヤル本戦に勝ち残れなかった時、その時に考えておこう」
セラフィムは若干言葉を選ぶ形で、エイジにバトルロイヤルへの参加を薦める。そして、そこで本戦に進めなかった場合、その時にはスターダストの返却に応じると答えた。
「バトルロイヤルか―」
エイジは何か思う所はあったが、バトルロイヤルへ参加する事に決めた。理由はどうであれ、その本戦に出れば試作型を託された答えも分かるのでは…と。
「全てのカードは出そろった。今こそ、スターダストを全ての世界に広める時が来たのだ―」
一連の様子をモニター越しから見ていたのは、背広姿の覆面をした男性…スターダストの生みの親であるミスター・スターダストである。
「音楽が示す本当の意味、それすら履き違えて年商9999京円を掲げるとは―どうやら、彼らはバブル崩壊を本気で起こそうとしているらしいな」
そして、ミスター・スターダストは社長室を後にして、別のエリアへと向かう。そこに待ちうける物とは…。
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【音楽業界は既に超有名アイドルの株主が集まるマネーゲームと化してしまった。ここまで変わり果てた業界に用はない―】
このつぶやきは、エイジとカシムが対戦する数日前に投稿された物である。この一言が劇的な速度で広まった結果、政府の野党が超有名アイドルのみに対して200%規模の物品税法案を検討、一般市民も超有名アイドルCDの不買運動を開始する等の混乱が続いた。
【僕の名前はオーディーン。アカシックレコードに触れ、超有名アイドルが破滅を導く存在と悟った一人だ―】
つぶやきの発信主の名前はオーディーンという…。しかし、別の世界線にも名前が出てくる彼とは違う人物らしい。
「この世界も裏で暗躍しているのは、全て2強と呼ばれる超有名アイドルか…」
パソコンの前にいたのは、グルグルメガネに天使の羽が生えているようなドレス、ロングスカートにスパッツと言う変わった格好をした女性だった。彼女こそが、一連の発言を発信したオーディーンの正体である。
「音楽は全ての人物によって平等な存在であるべきだ。特定のジャンルが利益を得る為に暴走した現状は…打破しなければならない」
彼女の可愛い声とは裏腹に、その発言は超有名アイドルに対して反旗を翻すようにも思える。その喋り方は、分かる人が見れば、何かに取りつかれたような感覚が分かるかもしれない。
「神曲が出る事には特に異論はない。だが、今の連中はCDチャートに踊らされ過ぎている―全ての元凶を断つ為にも、これを利用するか。こういった事に利用するのは、自分も気が進まないが―」
オーディーンの手には、銃型のスターダストが握られていた。彼女が超有名アイドルの一斉排除の為に利用しようと考えていたのは、スターダストだったのである。
【信じられない】
【これが同一人物の曲か?】
【こっちの方が凄くないか】
とある動画にて、100万再生を記録している曲がある。この曲は如何にも厨二を思わせるような曲調に加え、彼女自身のボーカルが加わり、独自の世界観を展開していた。
「この名前、何処かで見覚えが…」
黒い背広にショートヘアの女性、彼女の名前は西雲隼人…しかし、別の世界線の同一人物とは全く別人である。名前だけを借りているのか、別の事情があるのかは…現時点では不明である。
「オーディーン…!?」
オーディーンと言う名前を見た西雲は驚いた。まさか、あのオーディーンが同人楽曲に進出したと言う話自体が噂だと思っていたからだ。
「元々はメジャーレーベルからデビューしていた彼女が、どうして同人楽曲を…」
オーディーンは中堅のメジャーレーベルからCDデビューをしていたのだが、ある日を境に音楽業界から姿を消していた。その後、唐突に動画サイトで発表された楽曲が100万再生を超えている…。しかも、その曲調はメジャー時代を知っている人物からすれば…。
【メジャー時代とは、題材等がかけ離れ過ぎている】
【2強超有名アイドルが、彼女をここまで変えてしまったのか?】
【この曲を聴いていると今の音楽業界が、変わり果ててしまった理由も分かる気がする】
掲示板等でも、オーディーンの話題が出るたびに音楽業界が変わり果ててしまった事にため息を漏らす者もいる位である。彼女は、もう二度と全盛期のような曲は書かないのだろうか…と。
【今の彼女は超有名アイドルを根絶やしにする為に楽曲を作っているような気配さえ感じる】
【もしかして、超有名アイドルがきっかけで闇堕ちしたのか?】
【全盛期はラブソング等も書いていたのに、アレがどうやったら超有名アイドル完全否定の厨二曲メインのキャラになったのか…】
【それ位、超有名アイドルに対して追い込まれていた証拠だろう】
【ある意味でもオーディーンは、超有名アイドル商法に巻き込まれた犠牲者なのかもしれない】
色々な掲示板上の話を見て、西雲はふと思ったのである。
「また超有名アイドル絡みで大きな事件が起こる気配がする…」
その予感は、見事に的中する事になる。もっともよくない形として…。