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竜の少女と魔王のオレ  作者: 魔親 竜児
2/2

第一話 死病と死神

 ぶっそうなタイトルでごめんなさい

 内容はホラーではありません


「え〜、真に申し訳なく思っております……」


 もうすぐ定年というかんじの医者が視線を下げて呟く。

 

 ――――――もし、あなたが


「私としてもこのようなことを言うのは不本意ですが……」


 ――――――もうすぐ


「お子さんは若いですし、将来の可能性も大きいでしょう……それを踏まえて言わせていただきます。」


 ――――――この世を


「あなたの息子さんは肺がんです。もって余命は五ヶ月かと…………。」


 ――――――もし、あなたがもうすぐこの世を去るとしたら……?


「へぇー、そうなんだ。」


 自身を哀れむわけでもなく、運命を乗ろうわけでもなく、先ほど医者に余命宣告を受けた少年―――夜月 照平(やづき しょうへい)はただ淡々と人事のように言った。


 母親はその場でショックで気絶。父親は「お前その反応はなんだ!」と泣きながら怒りに震えていた。

 ちなみに照平には姉と妹がいるのだが、精神的ショックを避けるため、この場にはいない。


「あぁ? 俺さぁ中学高生活十分謳歌したし、高校生活まだ始まってないからやり残したことないしよ。それによ……」


 確かに中学校を卒業したばかりの十五歳の子供に『死』の実感など分からないのにも頷ける。

 しかし、照平には他にも先の発言の理由があった。


 それは――――照平は躊躇いがちに、それでもまっすぐに自分の親たちを見据えて言った。

 

「俺はあんたらの本当の子供じゃねぇんだろ。ウソ泣きやめろよ。みっともねぇ。」


 二人は―――いつのまにか起きていた母親も――――鳩に豆鉄砲を喰らったような顔していた。

 その顔を間近に見て照平は心の中で毒づきながらも、口を開くのをやめなかった。


「知らねぇとでも思ったのかよ。オレは十年前に引き取られた養子って戸籍に書いてあったぜ。自分の家の跡取り息子としてって……江戸時代みてぇなことぬかしてんじゃねぇよ!!」


 親はそれぞれ困惑、悲しみ、怒り、いろんな感情を押し込もうとして顔を下げたため、照平はこの五年間言えなかった怒りを吐ききらずに病室を出て行った。

 

 照平が初めて今の親が育ての親だと知ったのは五年前に偶然、親の実家で戸籍表を見たからだった。

 それから照平の目には親がよそよそしく映るようになった。

 さすがに姉妹には知らされてなかったらしく、普通の家族として暮らせたが、時折会う親戚や祖父母、そして毎日会う親の目も冷たかった。

 そして照平と目を合わせると、みんな決まって笑うのだ。


 あのさびしくなる『冷たい笑顔』を……


 それから家族を信用できなくなった照平はだんだん人間不信になっていった。

 つまるところ、照平には中学時代、友達がほとんどいなかった。

 人と関わることを毛嫌いし始めていった。しかし、人の関わりなしではいられないため、照平は人生に絶望すら感じていた。

 だからこの世を去ると言っても、少しも辛くも悲しくもなかった。

 

 しかし、照平はふらふらした足取りで病院の外へ出ると道の端にあった小石を力の限り蹴飛ばした。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なんでイライラしてんだぁ、俺はよ!」


 照平は分からなかった。五年間溜めていた怒りを少しだが開放して、もうすぐこの世からもオサラバできる。照平にとって幸福なことばかり起きたはずなのに、ちっともうれしくなかった。

 それどころか、なぜか無償にイライラしていた。

 まるで心に自分から穴を開けてしまったかのような、そんな感じだった。






 四月……この月から照平は入院することになった。

 照平の肺のがん細胞は除去不能までに陥っているが容態として発症するのは七、八月だそうだ。

 しかし、がん細胞が沈静する可能性があるため、細かい検査をするため入院することになった。

 ……照平にとっては死ぬまで病院のベットで楽々過ごせるという意味でしかなかったが。


「いやぁ、やっぱあいつら(両親)がいないと快適だぁ。寒々しい目もねぇしな!」


 と、ベットの上をゴロゴロしながら今週のジャ〇プを読みふけり、ポテチを食べる。

 …………完全にニートまっしぐらのお行儀である。

 

「お兄ちゃ〜ん、元気にしてた?」


 なんて兄を心配する声がしたと思ったら、


「あんた、またゴロゴロゴロゴロ……いい加減にしろ!」


 と叫びつつ長身の少女が照平の脳天に鉄拳を降らせる。

 照平は目の前に火花が踊った。


「病院なんだからしっかりと行儀良く。小学生でもできるマナーよ!」

「病院で大声出さないっていう、幼稚園生でもできるマナーをできねぇヤツに言われたくねぇよ。」


 耳をふさぎつつげんなりした口調でいう。やっかいな二人が来た。

 四歳違いの妹である夜月 未来(やづき みく)。小柄でおまけに貧乳だが、持ち前の明るさで学校でも人気者だ。卓球クラブに入っていて結構上手いらしい。

 そして照平に一撃を見舞った少女は一歳年上の夜月 美咲(やづき みさき)。未来と違い長身だが貧乳は共通している。剣道で中学時代に関東大会準優勝経験者でもあり、あまり照平としてはケンカしたくない人物だ。


「今日は始業式だから午前中で終わったの。だからお兄ちゃんに会いに行ってリンゴ剥こうと思って。」

「……お前リンゴ剥けたっけ?」

「失礼な! これでも上達したんだよ。」


 すると皮むきを始めて一分ほどでほぼ芯以外をすべて皮ごと剥いてしまった。

 少し引きつった笑顔を見せると、「ハイ」と差し出してきた。


「いや、いらねぇよ!」

「でもでも! 少しは上達したんだよ。なにか感想は?」

「そうだな……皮むきのスピードは上達したな。」

「ぜんぜんフォローになってない!」


 ―――――ほかに巧いこといえるのかよ?

 

「じゃぁ、私が剥いてあげよっか?」

「………………。」

「なに、その目は?」

「美咲……お前キッチンを何度爆発させたか覚えてるか?」

「キッチンじゃないじゃん!! それに美咲って呼ばない! 『お姉ちゃん』って呼びなさいよ!」

「いいや。お前の場合、包丁がどっか飛ぶな。それとオレが美咲のそう呼んだら、地球の終わりだな。」

「飛びやしないさ。精々刃が欠ける程度よ!」


 ―――――余計怖いだろ、それ!

 照平は辟易せざるを得なかった。


「いいや、俺がやる。リンゴもう一個あるか?」

「あるけど……」


 未来が渋々といった様子でリンゴを手渡す。それを手馴れた手つきで皮を剥くと、手ごろな大きさに当分する。

 照平は料理苦手な姉妹のためと自分の身を守るために料理の腕だけは確かである。彼にとってはこれくらい朝飯前。

 まぁそれだけ姉妹の料理センスが絶望的だったというわけだが……


 コトン、とリンゴが乗った皿に手をつけたのは照平ではなく、未来と美咲だった。


「う〜ん、やっぱりお兄ちゃんのリンゴはおいしいね!」

「皮剥いただけなのに、過大評価だな……。」

「だって私たちだと食うとこなくなるからな。」


 屈託もなくそう言う。照平は苦笑した。毎度のことである。


「じゃぁ、なにしにきたんだよ。」

「え〜、それはもちろん、照平にリンゴを食わせてもらうことと……」


 すでに隠し事なしで病人にリンゴを剥いてもらいに来てることを白状した。


「照平に様子聞きにきたんだ。」

「様子? 元気でいつもどおりだけどよ。」

「そうじゃなくて、病気についてだよ。命の別状は無いって医者は言ってたけど、内容を詳しく聞きたくてなッ。」


 最後は俯いて早口で美咲は言った。

 医者は姉妹には本当のことを隠しているのだろう。

 照平はほとんど無意識のうちに口を開いていた。


「大丈夫だよ、心配するな。長くても五ヶ月らしいぜ。」


 胸がチクリ、と鋭利な刃物で刺されたように痛んだ。


「本当か? 五ヶ月って相当長いぞ? 高校ぼスタートとしては厳しいし……」

「大丈夫だッ!!」


 大声をいつのまにか荒げていた。二人とも瞳が不安そうに揺れている。

 気まずそうに座りながら、照平が続ける。


「本当に大丈夫だから。心配するな。」


 ぶっきらぼうに言ってしまった。ふと、二人のほうを見ると、クスクス笑っていた。


「な、なんだよ。」

「いや、照平って短期だけどスグ拗ねるからおもしろいなぁって。」

「短期はお互い様だろう、美咲。」

「まぁ、お兄ちゃんが元気ってことは分かったから、心配しなくていいよ。」

「あ、あぁ。そうか……。」


 それから小一時間話して二人は帰っていった。

 

 あの二人は家族で『冷たい笑顔』を見せない唯一の存在だったが、病院に照平が入院してからその数が減っていった。

 むしろ『冷たい笑顔』を見せることも出てきた。今日のように……。





 夜になり、消灯の時間を過ぎたとき、病院は静寂と闇の世界に放り込まれた。

 照平は寝ずに雲ひとつ無い晴れた星空を見ていた。

 

 なぜ、俺はあいつらに嘘をついたんだろう? 別に隠す必要なんて俺には無いはずだ。

 俺は自分が死ぬことに興味なんて無いし、あいつらが悲しもうと知ったことじゃねぇのに、クソッ。


 照平は顔の向きを病院の天井に変えた。そこにはもう見慣れた白い天井があるはずだ。


 ―――――仮面が照平を覗き込んでいた。


「うわぁぁぁ!」

「おお、ナイスリアクションだよ。元気そうみたいだね。」


 照平は我が目を疑った。

 照平の一メートルさきくらいに立っている男が寝ていた照平を覗き込んでいた。

 そこまではいい。いや、よく無いが問題は男の格好だった。

 まるでゲームに出てくる魔法使いのような真っ黒いロープ。

 頭にはとんがり帽子と思いきや、マジシャンのようなシルクハット。

 極めつけは微笑を常に浮かべた白い仮面。


 魔法使いか手品師かはっきりしないヤツだ。

 百歩譲って、ファッションの自由を認めるにしても病院に来る格好ではない。


「てめぇだれだ? どうやって入った? 病院は消灯時間以降はしまっているはずだが?」

「まぁ、順番に答えよう。私は確かに玄関から入っていない。しかし裏門といった別の道からも来ていないよ。」

「じゃぁどこから……」

「平たく言えば、異世界さ。」

「はぁ?」


 埒が開かない。この手の話には照平は苦手だし、嫌いだった。


「そして私はヘェラルというものだ。以後お見知りおきを。」

「そうか、あいさつはいい。ここにいる理由も聞かねぇから、さっさと出てってくれ。」

「それは困る。私は君に用があるのだよ。」

「じゃぁ、その用件をオレが拒否するから、とっととでてけ! 俺はお前みたいなホラを吹くヤツが嫌いなんだよ!!」


 病院が寝静まっているのもわすれた思わず叫ぶ。少し後悔するが、仮面エセ手品師(今、命名)を追い払えるなら安いものだろう。

 

 照平は異世界やら、魔法といったファンタンジーが嫌いだった。

 小さいころは好きだったが本当の両親の秘密を知ってから考えが変わった。

 なんでも両親は有能な発明家やら科学者だったそうだが、変人でもあり魔術やら儀式やらが好きで、異世界の存在を信じていたらしい。それを追い求めて息子をほったらかしにし、終いにはすてたのではないか、という話を親戚と親がしているのを聞き終わってから、照平はファンタンジーが大嫌いになった。


 ふん、とふんぞり返ると、仮面エセ手品師は一歩も動いていなかった。


「てめぇ、帰れってのがわかんねぇか。」

「君も私がヘェラルと言ったはずだが? いやいや信吾と真奈美さんの子にしては少々頭がたりないのでは?」

「信吾? 真奈美? 誰だ?」


 照平の両親はそんな名前ではない。


「君の本当の(```)両親さ。知らないのかい?」

「な……。」


 照平は激しく狼狽した。

 

 なんでコイツが父さんと母さんの名を? いやそれよりも、なんで俺が養子だってこと知っているんだ?


 照平が落ち着き無く目を泳がしていると、ヘェラルは機嫌よさそうに体をよこしてきた。


「やっと、話をきいてくれるみたいだね。実は私は君の実の両親と深い仲で君のことも知っているよ、賞平くん。」

「俺の名前も……知ってんのか。」

「無論、そのとおりだ。だが、私は君にそんな話をしに来たのではない。」

「じゃぁ何しに……?」


 ヘェラルはずいッ、と仮面の顔を近づけると息をわずかに乱し言った。


「照平くん、生きたくはないか?」

「………………は?」

「その反応も頷ける。しかし! 本当の話だ。君が病に伏せる原因を私は知っている。多少の障害はあるし、私個人からの願いもあるが、それを聞き入れてもらえるなら君に本来あるはずの命を授けよう。」

「………………。」

「固まってしまうのも無理は無いな。なんせ命を少なからず諦めていた君にとってしんじがたいものだろう。」

「………………。」

「しかし、安心し、どうか信じてもらいたい。君にほかに生きる道はない。」

「………………。」

「では、それについての障害についてまずお話しよう。」

「いや、もういい。」

 

 照平は目を擦らせながら言う。正直、眠かったのだ。


「へ?」


 ヘェラルが間抜けな声を出す。仮面ごしだから見えないが顔も間抜けな表情を見せているかもしれない。


「へ? 、じゃねぇよ。その話真偽は抜きにして、願い下げだって言ってんだよ。

「ど、どうして?」

「うん? おい、そこは知らねぇのかよ。俺はなぁ、最初から自分の人生に興味ねぇんだよ。」

「だからと言って……。」

「興味もさらさらねぇ人生を延長なんざ、今一番したくねぇお願いだな。っていうことでサイナラ。」


 ばたんと、シーツに体を包み込ませると、外からドスン、という鈍い衝撃が来た。思わず叫ぶ。


「痛ってェェェェェ! 何すんだテメェ!」

「それはこちらのセリフだな。君は私たちにとって必要な存在なんだよ。」

「結局、そっちの都合じゃねぇか。こっちがいいって言ってるんだからおとなしく引き下がれ。」

「確かに半分は私の都合だ。しかしもう半分は君の両親のためにも私は君を救おうという気持ちからだ。なぁ、頼む。私に君を救わせてはくれないか。」

「絶対ェ、ヤダ。」


 照平は一歩も揺るがなかった。それほどに自身の人生に絶望し、死に興味が無かった。

 それを見たヘェラルは二、三度首を往復させると、決心したかのようにシルハットをかぶり直す。


「あい、分かった。どうやら君は予想以上に難敵のようだ。初回から予想もしなかった壁にそうぐうするとはね。」

「じゃ、諦めたのか?」

「まさか! 維持でも君には助かってもらうよ。君にはそれだけの価値がある。……まぁ、私の誇りにかけてというのもあるが。」

 

 呆れてものも言えない。この男は照平のどこが良いのだろうか?

 また平行線をたどる話をするのか思いきや、ヘェラルは「だが」と付け加え始めた。


「今回は退散しよう。予想外の君の言動の対策を考えねば。」


 そう言うと、手を上に向かってあげてパチン、と指を鳴らす。

 突然、黒い穴のようなものが出現して瞬く間に直径三メートル程度の大きさになった。

 唖然として見ていると、ヘェラルはこちらを向いて、その仮面の不快な微笑を照平の瞳に押し付けてくる。

 

アディオス(さよなら)


 ヘェラルが穴に飛び込むと穴は少しずつ小さくなり、やがて虚空へと消え去った。


 どれくらい経っただろうか。ふと照平が自分が汗まみれだということに気づいた。

 自分のくだらない妄想だったのかも、と一瞬都合の良いほうに考えるが、すぐに改める。

 あれはまがい物などではない。明らかに本物で異世界云々も多分信じたくないが本当だろう。

 あの男は照平を生かして、とんでもないことをさせるに違いない。もしかしたら死んだほうがマシというほどの……。

 

 ヘェラルは胸を抉るような恐ろしい笑顔を向けるのである。

 そしてもう一つ改めることがある。

 あの男は手品師でも魔法使いでもないということ。

 照平を天国か地獄のどちらにも送れる死神(ジョーカー)ということだ。



 

  

 

 

 


 






 フンタンジーなのにいつまで異世界を引っ張るのか……。

 次は異世界でるのでお待ちあれ!

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