空席にいたかもしれない友人へ
「婚約破棄が終わって、始まる」の番外編です。
そちらを先にお読みください。
「そうだ、田村君の退院が決まったって! 来週から登校できるそうだよ!」
「わあ、これでクラス全員そろうね!」
学校が終わり、駅への道を優花と一緒に歩くいつもの風景。
いや、「いつもの」なんて簡単に無くなるんだと知った。あの、修学旅行の事故で。
「でも、田村君ってバスケ部でしょ? 復帰しても皆に追いつくのに大変だろうね」
「それが、一度折れた骨は前より強くなるって聞いて無駄に自信満々なんだって」
「やだ、あいつみたい」
「あいつって?」
優花に聞かれて我に帰る。私、誰を思い浮かべてたんだろう。
「しっかし、あの事故で誰も犠牲にならなかったなんて、今思うと奇跡だよね。一番重傷だった田村君でも打撲と骨折だけ、いや『だけ』って言っちゃ悪いけど、内臓や神経は無事だったし」
「本当、今でもあのバスの惨状を思い出すとよく無事だったとゾッとするわ」
二ヶ月前の修学旅行で、私たちの乗ったバスは逆走車を避けようとハンドルを切った所に突っ込まれた。
「たまたま車が突っ込んだ所が空席だったから良かったものの……」
あそこに誰かが座っていたらと思うと背筋が寒くなる。
「ねえ、何で空席だったんだろう」
優花に聞かれた。
「何で?」
「うん。何であんな中途半端な席を空けたんだろう。普通は前に詰めるよね。
「確かに……」
考えこんだ私と反対に、悠花は別な物に興味が移ったようだ。
「あ、猫! にゃんころぴー!」
「ちょっと、にゃんころぴーって何よ。あの子じゃあるまいし」
「あの子?」
「あ……」
まただ。誰かを思い出しそうなのに……。
「なんか、大切な事を忘れている気がするのよね」
「分かる! 2組のオカルト好きたちは、これは記憶を消す陰謀論だとか宇宙人説とか騒いでるそうだよ」
「うわー、夢がない」
夢がある説って何よ、と優花が笑うので私は考えた。
「そうね……。実はあの空席には仲の良い男の子と女の子が座っていて、事故で亡くなった瞬間に異世界に転生したのでした、ってのはどう?」
「異世界ねぇ」
「そう。異世界に渡るためにこの世界にいた痕跡は消されて、私たちはその子たちの残した寿命を分け与えられたおかげで誰も命に関わる怪我にならなかったの」
「ツッコミ所がありすぎる説だけど、夢はあるわね」
「でしょ?」
「その二人が異世界で幸せだといいね」
いつもの駅への帰り道、私たちは空席にいたかもしれない友人たちの幸せを祈った。




