第94話 決意の夜
「ほらー! だったら、この際ちゃんと確かめてみたら?
咲夜さんに自分の気持ち、伝えてみなよ」
蘭にそう言われて、脳裏に流斗さんのやさしい笑顔が浮かぶ。
「でも、私は今、流斗さんと……」
「あー、まあねぇ、それがあるわね。
でもさ、流斗さんも唯の気持ち知ってたんでしょ?」
私は小さく頷いた。
「うん、それでもいいって……言ってくれた」
それを聞いた蘭は、頷きながらも少し真剣な口調になる。
「それなのに、傷つけるのが怖いからって黙ってるの?
それって優しさじゃないよ。むしろ、よっぽど残酷」
その言葉が胸に突き刺さった。
わかってた。心の奥でずっと思ってた。
でも、そのことに気づかないふりをしてきた。
お兄ちゃんをあきらめるために、流斗さんを好きになろうと努力した。
そんな気持ちを、流斗さんは全部わかっていて――それでもそばにいて支えてくれた。
そんな優しい人を、私は利用していた。
――最低だ。
自分が許せない。胸が痛い。悔しい。
目頭が熱くなって、涙が滲んだ。
「唯……もう、自分に嘘をつくのやめなよ。
そのままじゃ、誰も幸せになれないよ」
蘭は私を優しく抱きしめてくれる。
親友のあたたかな温もりと優しさに、さらに涙が溢れてきた。
「うん……」
私は蘭の腕の中で、力強く頷いた。
決めた。
流斗さんに、本当のことを言おう。
そして、お兄ちゃんに、気持ちを伝えよう。
――そう、思っていたはずなのに。
なかなか切り出せないまま時は過ぎ、とうとう学園祭がやってきた。
何度も言おうと思った。
でも、流斗さんの笑顔を見ると、喉が詰まって言葉が出ない。
蘭にもどやされながら、何度もトライしたけど、撃沈。
私はなんて勇気がないんだろう。
あの優しい笑顔が曇るところを見たくない。
でも、それって私のエゴだ。
気持ちはもう決まってる。
早く言わなきゃ。誰も前に進めない。
お兄ちゃんも、あの夜以来ずっと私を避けている。
必要なこと以外は話さないし、目も合わせてくれない。
こんな状態、もう嫌だ。




