第80話 変身、そして決意の午後
変身してしまった私。
このまま皆の前に姿を見せれば、混乱を招いてしまうかもしれない。
いったいどうすれば――
唯はどうする? 優はどんな理由で現れたことにする?
頭の中がぐるぐる回って、すぐに答えが出ない。
考え込んでいると、そっと優しい声が耳に届いた。
「唯さん……じゃない、優くん」
はっとして顔を上げる。
流斗さんが、私をじっと見つめていた。
「唯さんは、具合が悪くなって、そのまま帰ったことにしよう。
優くんは、少し遅れて来たことにすれば大丈夫だよ」
そう優しく諭され、焦っていた心が落ち着きを取り戻していく。
「……なるほど」
確かに、それなら辻褄が合うか。
さすが流斗さん。彼の言動はいつも的確で明快だ。
自然と頷いていた。
「そうですね。はい、そうします」
私の言葉に一拍置いてから、流斗さんが少し目を見開く。
しかし、すぐにふっと苦笑するように表情をゆるめた。
どこか自嘲めいた、申し訳なさそうな笑みだった。
「本当は帰った方がいいのかもしれない。でも……
僕のことを、見ていてほしいんです」
彼の真剣な眼差しが、まっすぐに私を射抜く。
ゆらぐ瞳の奥に、切実な想いがにじんでいるように見えた。
どうして、そんな目をするの?
午後の競技に出る流斗さんを、見届けてほしいってことだよね?
それなら、もちろん――そうするに決まっている。
私はにこりと微笑んだ。
「はい。もちろん応援します!」
その言葉に、流斗さんが目を細め、今度は決意のこもった眼差しを返してきた。
「……ありがとう」
彼の様子がどうもおかしい。
いったい、どうしたんだろう……。
胸の奥に、不思議なざわめきが広がっていく。
そんなとき。
「あっ……蘭!」
ふと思い出した。
そういえば、蘭はどうなったんだろう。
「心配してないかな?」
そわそわしながら問いかけると、流斗さんが苦笑する。
「してると思いますよ。
あなたのこと、羽鳥さんが教えてくれたんです。
“唯が連れて行かれた!”って、必死で訴えてきて」
「え……」
そんなことが。
だから、流斗さんがここに現れたんだ。
胸がじんと熱くなる。
蘭……ありがとう。
私は心の中で親友に手を合わせた。
けれど、すぐに現実に戻される。
「あ、でもどうしよう……今、私、優だ」
蘭にどう説明すればいい?
また焦りはじめると、流斗さんがそっと寄り添ってくれる。
「それなら、先ほど言った通りにしましょう。
僕がきちんと説明しますから、大丈夫」
その頼もしい笑みに、ほっとする。
彼が傍にいれば、すべてうまくいくような気がしてくる。
こんなにも優しくて、頼りになって、素敵な人が彼氏なんだ……よね。
私は果報者だよ、流斗さんを大切にしなくちゃ。
心の中で繰り返し、自分に言い聞かせる。
っと、だめだ。また忘れるとこだった。
蘭を早く安心させてあげなきゃ。
頭を切り替えながら、私は流斗さんと足早に蘭のもとへ向かうのだった。




