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義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます  作者: 桜 こころ
運命の体育祭

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第77話 火花散る昼下がり

 たどり着いたのは、校舎裏。

 人の気配はなく、辺りはしんと静まり返っていた。


 それもそのはず。

 ここは体育祭の喧騒から離れた、校舎の裏手にある奥まった場所。


 コンクリートの壁とフェンスに挟まれた通路には日差しも届かず、じめじめとした空気が肌にまとわりついてくる。

 少し息苦しく感じるような、そんな場所だった。


 こんなところで、いったい何を話すつもりなんだろう。


 向かい合った加奈さんの表情をそっとうかがう。

 視線が合うと、彼女はにこりと笑った。


「ふふっ、唯さんって可愛いのね。

 咲夜くんが大切に思うのも、無理ないわ」


 やっぱり、兄の話か。

 なんとなくそう思ってた。


「兄妹仲がよくて、羨ましいわ。

 でも……最近は私が咲夜くんを取っちゃって、ごめんなさいね?

 なんだか彼、私と一緒にいるとすごく楽しそうなの。とても積極的で……それがちょっと可愛くて」


 余裕たっぷりに微笑む加奈さん。

 その笑みは、どこか嫌な感じがした。

 人を不快にさせるような、挑発めいた笑み。


 いったい何が言いたいのだろう。

 ただ、私に自慢したいだけ? それとも――


「そういえば、最近どう? 咲夜くんとは相変わらず仲いいの?」


 ふいにそう訊かれ、うっと言葉に詰まる。


 ここ最近、私たちはまともに話せていない。兄には避けられてばかりだった。


「ええ、まあ……」


 本当のことなんて、言えるはずもなく。

 私は笑ってごまかした。


「ふーん。……あんまりこういうこと言いたくないんだけどね」


 加奈さんは小さくため息をつき、意味深な視線をこちらへ向ける。


「咲夜くん、唯さんと一緒にいると疲れるって、よく愚痴るのよ。

 “あいつと話すとしんどい”って」


 ――え?


 胸が、ずきんと痛んだ。

 体の内側から、一気に血の気が引いていくのがわかる。


 お兄ちゃんがそんなことを? 本当に……?


 私は加奈さんを見つめ返した。

 彼女はまるで楽しむかのように笑ったあと、困ったような表情を浮かべる。


「私ね、“妹のこと、そんなふうに言うもんじゃない”って止めてるのよ?

 でも彼、すごく辛そうで……。

 だからお願いがあるの。できれば、咲夜くんにはあまり近づかないでほしいんだ」


 な、なに言ってるの? この人。

 あまりにも勝手すぎる言い分。


「え……でも、それは」


「咲夜くんのためよ? 唯さんも、咲夜くんのこと好きでしょ?

 “お兄ちゃん”だもんねぇ。

 だったら、苦しめるのは本望じゃないはずよ」


 そう言いながら、加奈さんがじりじりと迫ってくる。

 壁際に自然と追い込まれていき、息が詰まる。


「あなたも彼氏、いるんでしょ? だったら彼氏の方に集中したらどう?

 ……ま、あの彼も、どうかと思うけど」


 クスクスと笑いながら、加奈さんは耳元でささやく。


「噂で聞いたんだけど……木村流斗さん、って言ったかしら?

 彼のお父さん、ひどい人だったみたいね。

 借金作って、家族を捨てて逃げたって――

 そんな人の息子と付き合うなんて、大変ね。支えてあげなきゃ」


 パンッ!


 乾いた音が、校舎裏の静けさを切り裂いた。


 私は、加奈さんの頬を――思いきり、平手で叩いていた。


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