第75話 白熱!どっちも選べない
私は慌てて、綱引きの競技エリアへと向かった。
すでに準備は整っていて、生徒たちはそれぞれの持ち場につきはじめていた。
その中に、すぐに見つけた。
対峙するように立っている二人の姿。
お兄ちゃんと流斗さん!
クラス対抗の綱引き。
応援席からの声援が飛び交い、グラウンドの空気が一気に熱を帯びていく。
綱を握る十人の中でも、彼らの存在感は際立っていた。
見た目もさることながら、体から放たれるオーラが他の生徒とはまるで違う。
まるで……決戦前夜のような、静かな熱が漂っていた。
「なんだか二人とも、すごい気合入ってるね」
隣で蘭がキラキラと目を輝かせて言う。
でも私は、正直、気が気じゃなかった。
どうしよう……。
まさか、さっきの出来事が二人の仲をぎくしゃくさせた、なんてことはないよね?
ハラハラしながら、二人を見守る。
いったい、どっちを応援すればいいの?
どっちも選べないよ~。
そんな私の迷いなんてお構いなしに、スタートの笛がグラウンドに鳴り響いた。
「いくぞーっ!」
笛の音に重なるように、兄の雄叫びが響き渡る。
「みんな、力を合わせて! 練習どおりにいけば勝てる!」
流斗さんは落ち着いた声で、的確に檄を飛ばした。
二人の声に応えるように、全員の表情が引き締まる。
その瞬間、綱がぐっと引かれ、両陣営の体が一斉に後ろへ沈んだ。
生徒たちの掛け声が響き、引っ張り合いが始まる。
だが、ほんの数秒で動きは止まり、綱はぴくりとも動かなくなった。
――完全な膠着状態。
「がんばれ、がんばれっ……」
気づけば、小さな声を漏らしながら拳を握りしめていた。
どっちの応援をしているのか、自分でもわからない。
その時だった。
兄のチームの一人が、足を滑らせてよろめく。
「今だ!」
流斗さんの声が響いた。
一斉に動き出すチーム。
揃ったタイミングで、一気に綱が引き寄せられる。
綱引きは一度崩れると立て直しが難しい。
そのまま、兄のチームはあっけなく敗北してしまった。
「あー……」
思わず、そんな声がこぼれたところで。
「あれ? 唯は、どっちを応援してたのかな?」
蘭が意地悪そうな笑みを浮かべ、私を覗き込む。
「べ、別に! 私は、どっちも応援してたの!
だって、お兄ちゃんと彼氏なんだから。どっちも大切に決まってるでしょ?」
なんとなく気まずくて、そっと蘭から顔を背けた。
本当は……ほんの少しだけ、兄の方をひいきしてた気がするけど。
それは、秘密。




