第72話 ふたりの視線、静かな火花
「ど、どこ?」
「あそこ」
蘭は少し複雑そうな表情で指をさす。
その視線の先を追うと――そこに、兄の姿があった。
ずっと探していた姿に胸が高鳴る。
けれど次の瞬間、ズキンと痛みが走った。
兄の隣に寄り添っていたのは、加奈さんだった。
加奈さんは兄にぴたりとくっつき、愛おしげな眼差しを向けている。
兄はというと、キョロキョロと何かを探しているようだった。
ふと視線が合う。
一瞬だけ驚いたような表情を見せた兄は、すぐに私から目を逸らした。
そう――
兄は、まだ私を避けている。
もう、昔みたいには戻れないのかな……。
「唯さん」
そっと肩に手が置かれる。
流斗さんが、落ち込む私を優しく見つめていた。
「この体育祭が終われば、きっと答えが出ますよ。
だから、もう少しだけ、我慢です」
何が言いたいのか、わからなかった。
私は彼をじっと見つめ返す。
流斗さんは微笑んだまま、視線を兄の方へ向けた。
その目は、真剣そのものだった。
同じく兄も、流斗さんに目を向けていた。
二人の視線がぶつかる。
何やらその間には火花が見える……ような。
その空気に気づいたのか、隣の蘭がぽつりとつぶやいた。
「おぉ……何かが始まりそうな予感」
体育祭は予定どおり進行していった。
私は自分の出場競技に全力集中!
障害物競走、玉入れ、二人三脚――
どれも一生懸命に取り組んでいたら、あっという間に出番が終わっていた。
汗ばんだ額をぬぐい、小さく息をつく。
うん、頑張ったと思う。
ひとまず、ほっと一息。
これからは応援に回ればいい。そう思うと、少し気が楽になった。
私は運動が得意というわけじゃないから、結果はまあまあってところ。
目立った活躍はなかったけど、精一杯やったし、十分満足。
よし、自分に花丸をあげよう。
――でも、蘭はやっぱりさすがだった。
「お疲れ!」
笑顔で戻ってきた蘭は、どの競技でも堂々の一位。
「お疲れ、大活躍おめでとう」
「ありがと。まあ私が本気出せば、こんなもんよ!」
ふふんっと鼻を鳴らし、得意げに胸を張る蘭は、ちょっと可愛い。
「じゃあ次は、借り物競争だね。流斗さんが出るし、応援に行かなきゃ!」
蘭が私の腕を引っ張って、意気揚々と歩き出す。
その姿につられて、自然と頬が緩んだ。
私はこのとき、ただ純粋に彼を応援するつもりだった。
――けれど、この裏で兄と流斗さんの静かな“勝負”が始まろうとしていることなど、知るよしもなかった。




