第71話 体育祭、はじまりの笛
そして、体育祭当日。
朝から校内はそわそわとした空気に包まれていた。
今日に向けて準備してきた生徒たちは、どこか浮き足立っているようで、
あちこちでにぎやかな声が響いている。
イベントって、不思議とワクワクしてしまう。
その空気に影響されたのか、どこか落ち着かない気持ちで教室を見まわした。
ホームルームが終わった生徒たちは、次々にグラウンドへと移動し始める。
私もそろそろ行かなくちゃ――そう思って、蘭を探した。
でも、彼女の姿が見当たらない。
「……どこ行ったのかな?」
教室を見渡していると、入り口から蘭が駆け込んできた。
「蘭! どこ行ってたの? もうそろそろグラウンドに向かうよ」
「うん……」
なんだか元気がない。
心配になって顔を覗き込むと、彼女はほんの少し目を伏せて、ぽつりと呟いた。
「唯、優くんがいない」
その一言に、息が詰まった。
そう言われると、困る。
だって、唯の姿で私がここにいるということは……優はいないってことになる。
でも、そんなこと、蘭が知るはずもない。
「優はあんまり、こういうイベント得意じゃないみたい。今日は来ないと思う」
なんとか誤魔化そうと笑って見せた。
「そうなんだ。残念だな」
しょんぼりと肩を落とす蘭の姿に、罪悪感が喉にひっかかる。
「でも、いっか。唯のこと全力で応援するわ! それに、咲夜さんと流斗さんも!」
急に明るさを取り戻した蘭に、思わず苦笑いする。
立ち直り早いなぁ……。
まあ、そういうところが蘭らしいんだけど。
「さ、行こう!」
「うん!」
私たちは一緒に教室を出て、グラウンドへと向かった。
すでにグラウンドには多くの生徒や先生が集まり、笑い声や話し声があちこちで飛び交っていた。
体育祭用のテントが立ち並び、カラフルなうちわや水筒を手にした生徒たちが思い思いに過ごしている。
開会式までは自由時間。
周囲の子たちが楽しげに談笑する中、私はどこか落ち着かない気持ちで辺りを見回していた。
探していたのは、兄――咲夜。
けれど、どこにも姿は見当たらない。
小さくため息をついたそのとき。
「唯さん」
後ろから呼びかけられて振り返ると、そこには流斗さんがいた。
いつもと変わらない優しい笑顔に、胸がざわめく。
「流斗さん……」
そう、本来なら私はこの人を探すべきだ。
兄のことなんて放っておいて。
私は無理やり笑顔を作った。
「今日は、どの競技に出るんですか? 応援しますね」
「うん。そうだな、ぜひ応援してほしい。借り物競争と綱引きと二百メートル走、だったかな」
「わかりました、楽しみにしてます」
そう言いながらも、ふと兄のことが頭をかすめる。
どの競技に出るんだろう……。
もし姿を見かけたら、きっと応援してしまう。
――その気持ちは、止められない。
「あ! あれ、咲夜さんじゃない?」
蘭の声に、心臓がひときわ強く跳ねた。
反射的にぱっと顔を向ける。




