第69話 俺が背負う十字架
俺の父親は、最低な男だった。
母に暴力を振るい、酒に溺れては喚き散らす。
ろくに働きもせず、母の金で暮らしていた。
もちろん、父親らしいことなんて一度もしてもらった記憶はない。
そんな父が、ある日事故を起こした。
酒を飲んだまま車を運転して――飲酒運転だった。
そして、その事故の相手が、唯の母親だった。
二人とも、その場で即死だったらしい。
幼い俺は、当時、そのことをよく理解できていなかった。
ただ、泣きながら毎日のように頭を下げに行く母の姿だけが、強く焼きついている。
けれど、不思議なことに、相手の家族は母を責めなかった。
むしろ、やつれきった母を気遣ってくれたという。
それが、唯の父親だった。
運命ってやつは、残酷すぎる。
けれどその後、唯の父と俺の母は何度か顔を合わせるうちに、少しずつ距離を縮めていった。
唯の父は、母が加害者の家族であることを承知のうえで、
母の中にある優しさや、真っすぐさを見抜いてくれたんだ……。
母は、そんな彼の存在に少しずつ救われ、やがて惹かれていった。
唯の父親は、本当に素晴らしい人格者だ。
どこまでも優しく、心は海のように広い。
もちろん俺も、そんな唯の父を尊敬するようになるまでに時間はかからなかった。
一緒に暮らすようになって、その人柄を知れば知るほど、自然と慕うようになった。
だが――
唯のことを好きになればなるほど、罪悪感が大きくなっていった。
俺は、唯の母親を奪った男の息子だ。
唯は、その事実をまだ知らない。
俺は母から聞かされていたが、「この罪は、私たちが背負っていかなければならない」と口止めされていた。
もちろん、俺はこの十字架を一生背負って生きていくつもりだ。
でも……もし唯が知ったら、どう思うだろう。
今までどおり接してくれるだろうか、それとも俺を憎むだろうか。
その恐怖に、ずっと怯えている。
夜、夢に見ることさえある。
事実を知った唯が、憎しみのこもった目で俺を睨む。
目が覚めると、全身が汗でびっしょり濡れていた。
そのたびに、罪の意識に苛まれる。
こんな日がいつか本当に来てしまうんじゃないかと、ずっと怯えていた。
……こんな俺が、唯のことを好きだなんて――言えるか?
許されるのか?




