第68話 手放せない想いと、消えない過去
「僕が勝ったら、唯さんとのことを認めてもらう」
その名前に、はっとする。
「唯……? おまえ、何を言って――
認めるも何も、もう認めてるだろ」
視線が彷徨った。
まっすぐ見返すことができない。
「認めたふりしてるのはわかってる。本当は、まだ認められてないくせに」
「……なっ……」
流斗を睨む。
だが、その目は怯むことなく、真っすぐ俺を射抜いてくる。
「君の気持ちは、だいたい察してる。
唯さんのことを想って、自分なりに距離を取ってるつもりなんだろうけど……
その中途半端な態度が、彼女を苦しめてるんだ」
その言葉が、鋭く胸に突き刺さった。
――わかってる。わかってるよ。
「僕は、そんな彼女を放っておけない。ここではっきりさせてほしい」
まっすぐな声が、熱を帯びて胸に響く。
抑えていた悔しさが、じわじわと滲み出してきた。
「……くっ、じゃあおまえが幸せにしてやれよ」
視線を逸らすと、流斗の声が追いかけてくる。
「怖いんでしょ? 唯さんに拒絶されるのが」
淡々とした口調。けれど、棘を感じる。
「っ……」
「兄妹だから? それとも――お父さんのことが引っかかってるのかな?」
その一言で、頭の中が真っ白になる。
かあっと血が上り、拳を握りしめた。
「おまえっ……! その話はするな。
流斗には、俺の気持ちはわからないっ!」
息が乱れ、胸が激しく上下する。
そんな俺とは対照的に、流斗は冷静そのものだった。
「図星なんだね。
ああ、そうさ。僕にはわからないよ、君の気持ちは。
でも一つだけ言える。僕は、唯さんを苦しめるようなことはしない。
彼女が幸せになる道を選ぶ。それだけだよ」
その目を見れば、嫌でもわかる。
本気だ。
こいつは本気で、唯のことを――。
……そうだ、俺は怖かったんだ。
唯に拒絶されるのが。
もちろん、「兄妹」という関係もある。
ずっとそうやって育ってきたのに、兄から突然想いを告げられたら、気持ち悪いと思われるかもしれない。
そう思って、ずっと抑えてきた。
でも、いつからか、唯も俺のことを……そう思うようになった。
あいつの反応が、そう感じさせたから。
本当は、すぐにでも伝えたかった。
世間の目なんてどうでもよかった。
唯を手に入れられるなら、それだけでよかったんだ。
だけど、俺にはどうしても伝えられない理由がある。
それは――まだ唯には話していない秘密。
俺の父親は……唯の母親を、殺した。




