第6話 今日もまた、振りまわされて
兄は私たちに気づくと、ふっと表情を緩め、まっすぐこちらへ歩いてきた。
「唯、遅ぇよ。待ちくたびれるだろ」
そのまま私の頭に手を伸ばし、ガシガシと遠慮なく撫でてくる。
「ちょ、やめてよ……!」
私は慌ててぐしゃぐしゃになった髪を直しながら、じろりと兄をにらんだ。
「別に頼んでない」
つい不機嫌な態度を取ってしまう。
そう、いつも勝手に兄が待っているだけで、私が頼んだわけではない。
「可愛くねえな」
「どうせ可愛くないわよ」
ぷいっと顔を背けると――
「唯さんは可愛いですよ」
優しい声音とともに、端正な顔がぐっと私を覗き込んできた。
「る、流斗さんっ!」
突然の接近に、私は思わず一歩後ずさる。
びっくりした……そうだ。兄がいるなら、流斗さんもそばにいるはず。
二人はいつもセットみたいに行動してるから。
まるで、私と蘭みたいに。
「おい、流斗。近づきすぎだ」
その声は、いつもより少し低かった。
気づけば兄がすっと前に出て、私と流斗さんの間に自然に割り込んでくる。
まるで、遮るかのように。
「はいはい……ほんと、素直じゃないんだから」
流斗さんは小さく肩をすくめ、困ったように微笑んだ。
「あ? なんだと?」
ふたりが軽く火花を散らす。
喧嘩しそうな雰囲気に、私は慌てて声を上げた。
「あーもう、帰ろ! ほら行くよ」
私は兄の腕をつかみ、ぐいっと引っぱる。
「お、おい、わかったって。離せよ」
兄は少し照れくさそうに、手を軽く振りほどいた。
え……なに? そんなに嫌なの。
ムッとしながら兄を睨みつける。
「男が女に引っ張られるなんて、ダサいだろ……」
そう言いながら、兄はわずかに顔をそらした。
なにそれ。今さらでしょ。変なお兄ちゃん。
私がじとっと見つめていると――
「じゃあ、帰りましょうか」
まるで空気を読んだかのように、流斗さんがやわらかく促した。
少し迷ったあと、私は流斗さんにそっと頷いた。
それから蘭の方へ目を向ける。
「蘭、じゃあまた明日ね」
「う、うん。皆さん、ごきげんよう」
蘭の高貴な挨拶に、ずっこけそうになる。
ごきげんようって……キャラじゃないでしょ?
さっきから妙におとなしかった蘭。
その視線はしっかりと兄と流斗さんに向けられていて、目がハートになっている。
ほんとに蘭は、美男子という種族に目がない。
彼女の目にはきっと、兄と流斗さんが王子様のように映っているんだろう。
私は呆れたように蘭を見つめ、手を振った。
蘭もここぞとばかりに、しおらしく手を振り返している。
……まったく。
心の中で盛大にツッコミを入れつつ、苦笑する。
気を抜いていたそのとき――
「おい、置いてくぞ」
不意に兄の声が飛んできて、ハッとした。
気づけば、兄と流斗さんはすでに歩き出している。
「あ、ちょっと待ってよー!」
私はあわてて、ふたりのあとを追いかけた。




