第64話 ほんとうのことが言えなくて
気まずいな……。
視線を逸らしながら答える。
「でもさ、あんまり優とは話さないんだよね。よく知らないよ?」
そう言うと、蘭が不貞腐れたような声を出した。
「えー? でも今、一緒に暮らしてるんでしょ?」
――はっ。
そうだった、そういう設定だった……すっかり忘れてた。
頬をかきながら、たじたじと返事をする。
「うん、まあね。でも男と女だし、なんとなく距離はあって。
あ、でもお兄ちゃんの方が詳しいかも!」
話題を兄に放り投げた。
ごめん、お兄ちゃん、と心の中で手を合わせる。
蘭が残念そうにため息をもらす。
「ふーん、つまんないの……。ていうか、ほんと似てるよねえ」
顔がぐいっと近づいてきて、逃げるようにのけぞる。
ちょ、近すぎるってば!
「な……何が?」
焦りながら見つめ返すと、蘭は真剣な顔で言った。
「唯って、ほんとに優くんそっくり。
こうやって顔だけ見てると、なんだか優くんと見つめ合ってるみたいでさ……」
蘭がぽーっとした表情で、さらに近づいてくる。
その距離、数センチ。
このままじゃ、キスしちゃうよ……!
「ちょっと! 私は優じゃないってば。しっかりしてよ、蘭!」
私は思いきり肩を押し返した。
蘭は目を丸くすると、あわてて距離を取った。
「わっ、ごめんごめん! 私としたことが……なんか、ぼーっとしちゃって」
顔を赤らめ、目を伏せる。
そんな蘭が可愛くて、ふっと笑ってしまう。
……だけど、心の奥がちくりと痛んだ。
「ううん、いいよ。それだけ優のこと、本気で好きなんだね」
「……うん」
恥ずかしそうにうなずく蘭を見て、胸が締めつけられた。
私、蘭のことも傷つけてる。
本当のことを隠して、騙して。
もし、真実を知ったら、どんな顔をするだろう。
信じてくれるだろうか。受け止めてくれるだろうか。
――怖い。
それでも、言うべきなんじゃないか。
このままじゃ、友情まで壊れてしまいそうで。
意を決して口を開く。
「……あの」
「ねえ唯、私、優くんに本気なの。応援してね?」
可愛い笑顔で言われ、出かけた言葉を呑み込む。
「優くんって、唯に似てるでしょ?
私、前から思ってたんだ。唯が男だったらよかったのに、って。
いや、変な意味じゃないからね? でも唯のこと、大好きだから……
男だったら絶対惚れてた。だから優くんに出会えて、本当に嬉しかったの」
蘭はキラキラした目で語る。
その笑顔を見ていたら、もう――何も言えなくなった。
本当のことを、伝える勇気が消えていく。
この笑顔を壊したくない。
失いたくないって……思ってしまった。
それが、親友を欺くことになったとしても。
そして、また私は嘘を重ねていく。
彼女の笑顔を守ったつもりで。




