第61話 親友に誘われて
あれから――
また日常は戻り、私は唯と優を行ったり来たりする日々を過ごしていた。
けれど、三人の間には、どこかぎこちない空気が流れている。
流斗さんは、頬にキスをくれたあの日以来、少し遠慮しているように見えた。
――それは、私が作ってしまった距離感なのかもしれない。
一応、私たちは付き合っているから、彼はそばにいてくれる。
それでも、ふとした瞬間に心の距離を感じてしまうことが増えた。
そして兄はというと、
妹と親友の交際を喜ぶように、やたらと明るく振る舞うことが多くなった。
最近は加奈さんとの時間を優先しているみたいで、私と顔を合わせる機会は目に見えて減っている。
正直、兄と加奈さんが仲よくしている姿を見るのはつらい。
見かけるたび、視線を逸らしてしまい、自分が情けなくなる。
そんな私の気持ちに気づきながらも、流斗さんは変わらず接してくれる。
……その優しさが、せつなくてもどかしい。
彼への罪悪感は、日に日に膨らんでいくばかりだった。
こんな関係、よくない。
頭ではわかっているのに、どうしていいのか、もうわからなかった。
「ねえ、唯。今日うち来ない?」
休み時間、突然蘭から誘われた。
「え? 急にどうしたの?」
「別に。たださ、たまには二人で女子会しよっ」
顔を近づけてウインクしてくる蘭。
……落ち込んでるの、気づかれてるのかな。
じっと見つめていると、蘭は私の腕を取って、おねだりするように揺らした。
「ねぇ、いいでしょ? 恋バナしよ、恋バナ!
女の子の特権だよ、楽しいし。あ、今日はうちに泊まっていきなよ。うん、決まり!」
どんどんテンションを上げ、勝手に予定を決めていく。
「は? ちょ、勝手に……」
戸惑う私に、蘭は目を細めて鋭い視線を向けてきた。
「なに、それ。ダメなの?」
不機嫌そうな顔に、私は押し黙るしかない。
綺麗な顔って、怒ると迫力がある。
「いや……ダメじゃ、ないけど」
「じゃあ決まり。お泊りの用意できたら、うちに来て」
強引に指切りされ、反論する隙もなかった。
……まあ、いいか。
一人で悩んでいても、気持ちが沈むばかりだし。
今は、誰かといたい。
それなら蘭が一番いい。
彼女とは気心が知れてるし、その明るさが、きっと私を引っ張り上げてくれる。
それに、そろそろ彼女にも気持ちを打ち明けたいと思っていた。
だから――いい機会なのかもしれない。
兄への想いを、もう一人で抱えていられそうにないから。
学校から帰った私は、母に事情を話した。
「あら、いいじゃない。お泊まり。
学生ってそういう楽しみがあっていいわねえ。
親友と夜通し語り合えるなんて、素敵じゃない。どうぞ楽しんできて」
母はにこにこと頷いてくれた。
父ももちろん快く承諾してくれる。
兄は、今日も加奈さんと出かけているようで家にはいなかった。
母に兄への言付けを頼み、私はお泊まりの準備を済ませて家を出た。




