第54話 幸せだから、苦しくなる
お風呂からあがった私は、軽く髪を拭きながらリビングへ向かった。
ふと視線を向けると、ソファーでは父と母が仲良く寄り添ってテレビを見ている。
本当にこの二人は、いつもラブラブで羨ましい。
あきれたようにその背中を見つめていると、ふいに頭の上に手が置かれた。
「ぼーっとしてないで、座れよ」
兄に肩を抱かれ、そのままソファーへと誘導される。
両親の隣に腰を下ろすと、兄も当然のようにその隣へ。
気づけば、家族四人なかよく並んで腰掛けていた。
これ、いつものこと。
「あら、唯ちゃん、もう気分はいいの?」
母が可愛い笑顔で問いかけてくる。
「うん、お風呂入ったらリラックスできた。もう大丈夫だよ、ありがとう」
私が答えると、母はとても嬉しそうに微笑んだ。
その天使のような笑顔に癒される――ほんと、可愛い人。
母の隣から、父が優しいまなざしを向けてくる。
「唯、いろいろ大変だろうと思うけど、無理はしないようにね。
辛かったら、僕たちに頼るんだよ。家族なんだから」
その言葉に、肩の力がふっと抜ける。
「うん……ありがとう」
こういうのって、いいな。
家族の愛が、静かに心にしみていく。
でも、その『家族』という言葉が、私の胸をざわつかせた。
隣に座る兄を見つめる。
「ん? どうした?」
目を細め、ふわりと柔らかな笑みを浮かべる兄。
その温かい眼差しも優しさも、家族だから向けてくれるのだろうか。
大切な妹だから、そんなふうに笑ってくれるの?
そう問いかけたかった……でも、言えない。
「ううん、なんでもない。ただ、私は幸せだなあって思っただけ」
「なんだよ、今さら気づいたのか?
おまえは超絶幸せだぜ。こんなにいい両親がいて、さらにはこんなにイケメンで優しい完璧男子が兄なんだからな」
その屈託ない笑顔に、胸がきゅっとなる。
そう、私のお兄ちゃん……。
私の好きな人は、家族であり、兄なのだ。




