第53話 知りたい兄の想い
唯へと戻った私は、まだ足元に力が入らず、兄の腕に支えられながら家へ向かった。
玄関に入ると、兄が私をそっと座らせ、自分の靴を脱ぎながら声を張る。
「ただいま!」
その声に反応して、父と母がリビングから出てきた。
「あら、お帰り~」
「あれ? 唯と咲夜くん、一緒だったの? 確か別々に出て行ったような」
いつも通りにこにこと可愛い笑顔の母と、首を傾げる父。
兄は面倒くさそうにため息をつき、視線を母に向けた。
「ああ、別にいいだろ。
それより唯の奴、一度優になって、さっき戻ったばかりなんだ。疲れてるからお風呂沸かして」
「え! そうなの? ちょっと待っててね」
母が慌ててお風呂場に向かう。
「それは大変だったねぇ。唯、大丈夫だったか」
父が心配そうに私の肩を抱き、覗き込んでくる。
「うん……。お兄ちゃんがそばにいてくれたから」
私は兄を見つめた。
兄は嬉しそうに、にこっと笑う。
「さ、お風呂が沸くまでホットミルクでも飲んでろよ。俺が用意するから」
そう言って、兄はキッチンへと消えていく。
「うんうん、本当にいいお兄ちゃんだねぇ、咲夜くんは。よかったな、唯」
父が満足そうに微笑む。
「うん……そうだね」
私も笑顔を返すけれど、心の奥は複雑だった。
いいお兄ちゃん……か。
兄が用意してくれたホットミルクを飲んだあと、私はお風呂に入った。
湯船に身を沈め、ふうっと息を吐く。
湯気の向こうに、今日の兄の姿が浮かんだ。
なんだか少し変だった。
デートの途中で合流してきたかと思えば、妙に距離が近かったし、流斗さんのこともやけに気にしていた。
お試しとはいえ、私が流斗さんと付き合い始めてから、兄の様子がどこか違う。
もしかして……少しは妬いてくれているのかもしれない。そうだったら、嬉しい。
でも――そんなふうに思っていいの?
私たちはずっと兄妹として生きてきた。
もしそんな関係になったら、両親はどう思うだろう。世間の目だって変わるかもしれない……。
やだやだ。考えたって仕方ないじゃない。
まだお兄ちゃんが私のことを好きだと決まったわけでもないのに。
また期待して、また落胆するのがオチだ。
やめよう。考えるのは。
それに、お兄ちゃんには加奈さんという素敵な彼女がいる。
私だって、流斗さんとちゃんと向き合わなきゃ。
しっかりしなくちゃ。
両手で頬をぺちんと叩き、深呼吸ひとつ。
気合を込めて湯船から立ち上がった。




