第49話 こっそり変身中につき、緊急事態
観覧車を降りた私は、流斗さんに連れられて建物の影へ身をひそめた。
もうすぐ降りてくる兄と加奈さんに見つからないようにするためだ。
兄はまだしも、加奈さんに今の姿を見られるのはまずい。
ここにいるはずのない「優」がなぜここにいるのか、不審に思われるだろうし、唯がいないことの説明も考えなければならない。
そんなわけで作戦を練るため、私たちはいったん死角に身を隠したのだった。
身を隠すついでに、私は物陰でこっそりと着替え始める。
来ていた女の子の服を脱ぎ、持参していた男の子の服に袖を通す。
これで華麗に男性へ大変身! ……って言ってる場合じゃないんだけどね。
……いつもほんと大変なんだから。
こういうこともあろうかと、兄が私に着替えを持たせてくれていたのだ。
お兄ちゃん、ナイス! 心の中でガッツポーズを送る。
着替え終わった私が流斗さんの方へ戻ると、
「ごめんね。僕のせいでこんなことに……」
流斗さんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
私は思いきり首を振る。
「いえ! 流斗さんのせいじゃありません。
私が変身してしまうからで……」
気まずい空気が流れる。
さっきの告白の余韻が残っていて、なんだか妙に緊張感があった。
流斗さんも、いつもよりどこか落ち着きがないように見える。
「えっと、とりあえず、唯さん……じゃない優くんは先に帰りましょう。
僕がふたりに説明しておきます。唯さんは気分が悪くなって先に帰った、って」
「それで大丈夫でしょうか?
兄はあとで事情を説明すれば済むけど……驚いて、加奈さんの前で変なことを口走ったりしないかな」
「確かに……」
こうやって言われてしまうお兄ちゃんって、信頼ないなあ。
なんて二人で頭を悩ませていると、聞き慣れた呑気な声が聞こえてきた。
「唯、流斗、どこいった? おーい!」
観覧車を降りた兄が、私たちを探している。
「ど、どうしましょう!」
焦ってあたふたする私の手を、流斗さんがぎゅっと握る。
驚いて顔を上げると、彼はまっすぐ私を見つめ返してきた。
「とりあえず、ふたりから離れよう」
いつも冷静なはずの流斗さんが、珍しく焦った顔をしていた。
そのまま私は手を引かれ、駆け出す。
「きゃっ」
走り出した途端、誰かとぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
「いたたっ」
ぶつかった相手は、よりによって――加奈さんだった!
「あら? あなたどこかで……って、流斗さんじゃありませんか」
加奈さんは流斗さんを見るなり、目を丸くする。
ど、どうしよう。
こんなタイミングで加奈さんに見つかるなんて……。
どうしたらいいかわからず、視線を落とした。
「あ、いたいた、おーい!」
遠くから兄の声が聞こえ、急いでこちらへ駆け寄ってくる。
「って、あ!」
兄の目が大きく見開かれ、声が弾けた。
皆の視線が集まる。
兄は少し気まずそうに微笑むと、黙り込んでしまう。
重い沈黙が漂う中、最初に口を開いたのは加奈さんだった。
「ねえ、あなた、どこかで会ったことない?」
じっと見つめられ、私は視線を泳がせる。




