第4話 ドキドキ、からかわれ注意
確かに、兄はイケメンだ。
背はおよそ一七五センチ。
細身だけど締まった身体つきで、男らしい筋肉もある。
長い手足にどんな服もさらりと着こなす、まるでモデルのような体型。
今流行りの小顔で色白。
この切れ長の瞳に見つめられたら、誰だってドキッとしてしまうだろう。
男らしいのに、笑うとどこか可愛げがあって。
成績優秀で運動神経も抜群。
……ほんと、なんでそんなに完璧なの?
困るんだよね、競争率が上がるから。
群がる女子が多いと、私も心中穏やかでいられない。
別に、そんなに完璧じゃなくてもよかったのに。
むしろちょっとダメなくらいがちょうどいいのに。
そんなことを考えながら、私は兄を恨めしそうに見つめる。
すると、不意に、柔らかな声が耳に届いた。
「唯さん、どうしたんですか? そんな怖い顔して」
目の前に、スッと美しい顔が現れる。
「わっ、びっくりした!」
驚いて一歩後ずさる私を、にこにこと見つめるその人は――兄の親友、木村流斗。
高校三年生で、うちの兄と同級生。あ、ちなみに私は一年生。
さすがと言うべきか、彼もやっぱりただ者じゃなかった。
成績は常に全国模試トップ。
生徒会長を務め、全校生徒から厚い信頼と羨望の眼差しを集める稀有な存在。
どんな問題も涼しい顔で解決し、先生たちからも頼りにされる。
みんなのお兄さん……みたいな人。
こんな彼が、どうして兄と親友になったのかは謎だけど。
二人はお互いを信頼し、大切に思っている親友らしい。
まあ、仲が良いのはよくわかる。
私は二人をちらりと見た。
さっきから、仲良く会話を弾ませている。
……だけど、この人たちが並ぶと余計に目立つんだよね。
通りすがりの女子たちがじっと二人を見つめ、最後には私を睨んでいく。
もう、勘弁してほしい。
「おい、唯。聞いてんのか? 今日、おまえのクラスで小テストあるらしいぞ」
「ええっ!? 何それ、聞いてない!」
私が慌てると、兄と流斗さんが含み笑いを浮かべた。
「これ、流斗情報な」
「内緒ですよ、唯さんだけに特別です」
兄がイタズラっぽく笑い、流斗さんは人差し指を立てる。
えっ、どこからそんな情報を……。
いやいや、今さら言われても遅いんだけど!
私は頭を抱えて考え込む。
「嘘だよ」
兄がばっさりと言い放つ。
「そんなのわかるわけないだろ? な、流斗」
「ええ、さすがにそこまでは」
「唯はほんと騙されやすいよな」
兄がニヤリと笑い、流斗さんもにっこり微笑む。
まただ……また、ふたりで私をからかって。
何が面白いのよ!
「ひどい……本気で悩んじゃったじゃない!」
ぷくっと頬を膨らませ、ふたりを睨みつける。
「唯さん、ごめんなさい。僕は咲夜に頼まれただけです」
「あ! てめぇ、人のせいにすんなよ。おまえも楽しんでたろ」
「そうでしたっけ?」
ふたりがじゃれ合う姿を見ていると、怒る気もどこかへ消えていく。
自然と、私の顔にも笑みが浮かんでいた。
「もう、二人とも。行くよ、遅刻しちゃうでしょ」
私はふたりの背中を押す。
「そうだな、行くか」
「ええ」
二人は私に微笑み、お互いを見つめ合って笑った。
ほんと、仲がいいんだから。
いつも喧嘩しているように見えるけれど、それは二人なりのじゃれ合いなのだ。
ふいに兄が、さりげなく私の肩を抱いて歩き出す。
……トクン。
心臓が跳ねた。
ほんと、こういうの……やめてほしい。
ずるいなあ。
嬉しさと切なさが入り混じるこの気持ち。
私はうつむいて歩きながら、兄の何気ない行動に胸を痛めるのだった。




