第48話 知らなかったのは、私だけ
「唯さんのこと、ずっと前から知ってたんだ。
咲夜の妹って知る前から、君のことを可愛いなって思って、目で追ってた。
だから、親友の妹として紹介されたときは、本当に驚いたし、幸運だって思ったよ」
珍しく、流斗さんの声は熱を帯びていた。
その無邪気な笑顔に、目を奪われる。
「でも、すぐに落胆した。君の気持ちを知ったから。
咲夜のことが好きなんだって、すぐにわかった。
唯さんがそれで悩んでいることも」
流斗さんが今度はうつむく。
いつもの余裕ある大人な彼とは違う、感情豊かな表情に胸がざわついた。
「気持ちを伝えることも、応援することもできなかった。
二人とも失いたくなくて、ただ見守ることしかできなくて……。
そうしているうちに、時間だけが過ぎていった」
胸の奥を吐き出すように、言葉をつむいでいく。
「――この前は、秘密を知れてラッキーだと思った。
もっと君に近づけるって思ったんだ。
咲夜のことで悩んでいる唯さんを見て、今しかないって思った。
だから勇気を出して言った。……まあ、少しひねくれた言い方だったけどね。
本当はもっと素直に告白すればよかったのに、あんなふうにしか言えなくて」
私は口をぽかんと開けたまま、流斗さんの言葉を聞いていた。
だって、初めて知ることばかり。
頭が追いつかない。
流斗さんが付き合おうと言ったのも、半分冗談だと思っていた。
優しい言葉も、ときめくような仕草も、ただ私をからかっているだけだと思ってた。
兄の妹だから優しくしてくれているんだと、そう思い込んでいた。
まさか、本当に私のことを好きでいてくれたなんて――。
「あ、あの……」
混乱したまま、口を開く。
いきなりの告白に、どう返せばいいかわからない。
いや、嬉しい。嬉しいけど……。
これまで流斗さんは兄の親友で、優しいお兄さん的存在だった。
まさか私を恋愛対象として見ていたなんて、考えたこともなかった。
戸惑いに揺れていると、流斗さんがぐっと迫ってくる。
「ねぇ、唯さん。僕とのこと、本気で考えてくれない?
これからは兄の親友としてじゃなく、一人の男として」
流斗さんの顔がどんどん近づき、息がかかりそうな距離になる。
ひ、ひえ〜。
「あ、えと……その、私、私。でもっ」
もう限界。
頭が真っ白になって、何も考えられない。
心臓が爆発しそうなほど激しく鳴り響く。
そのとき――
「あ……」
流斗さんの目が丸くなり、私をじっと見つめた。
まさか。
「唯さん……ごめん。僕のせいだ」
申し訳なさそうに謝る流斗さん。
そう……私はまた、優に変身してしまっていた。




