第46話 観覧車と風船と、届かない心
自分から腕を絡めるなんて、よくもまあそんなことができたなと自分でも驚く。
でも、これくらいしないと兄の態度は変わらない気がしたから。
……本当は、私がお兄ちゃんとふたりで乗りたい。
それが本音。
だけど、それはしてはいけないこと。
ふたりだけで来ているならまだしも、今はお互い恋人がいるのだから。
そんなことは許されない。
「大丈夫ですか?」
ぐいぐい引っ張っていくくせに、急に黙り込んでしまった私。
流斗さんはそんな私を心配してか、優しく声をかけてくれた。
「はい、大丈夫ですよ。さ、観覧車へ行きましょう。
バカな兄は放っておいて」
せいいっぱいの強がりを見せると、
流斗さんは、少し困ったように優しく笑った。
「……そう、ですね」
後ろから兄と加奈さんがついてくる気配を感じつつ、私は先を急ぐ。
二人のいちゃつく姿は、見たくない。
なのに、なんでこうなるかな……。
私は横目で兄と加奈さんを盗み見る。
せっかく急いで観覧車に来たのに、結局、兄たちと合流するはめになってしまった。
思いのほか混雑していて、結局は四人そろって列に並ぶことになった。
肩が触れそうな距離で笑い合う二人を見て、胸の奥がざわついた。
「きゃっ」
不意に加奈さんが足をもつれさせ、兄の肩にもたれかかる。
「おい、大丈夫か?」
兄がとっさに腰へ手を添え、そっと支えた。
「ええ……咲夜くん、ありがとう」
加奈さんがほんのり頬を染め、兄を見上げる。
その視線と、兄の優しいまなざしが重なる瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
耐えきれず、視線を逸らす。
「あ、唯さん。あれ見てください」
呼びかけられて顔を上げると、流斗さんが何かを指さしていた。
その先では、遊園地名物の大きなキャラクターが子どもたちに風船を配っている。
「あの風船欲しいですか? 取ってきましょうか」
流斗さんが優しく微笑みながら言う。
――なに言ってるの?
私は思わず首を傾げた。
子ども扱いされているみたいで、ちょっと恥ずかしい。
「べ、別に欲しくありませんよ。子どもじゃないんですから」
私がぷくっと膨れたように言うと、彼は口元をほころばせる。
「そうですか? 唯さん可愛いから、欲しいのかなあと思って」
「それ、どういう意味ですか?」
慌てて問い返すと、流斗さんは肩を揺らし、明るく笑った。
「ははっ、すみません」
からりとした笑顔を見て、ふと思う。
流斗さんがこんなことを言うなんて、ちょっとびっくり。
でも、すぐにわかった。
私が風船なんて欲しがると思っていない。
落ち込んでいるのを気づかって、楽しい話題を振ってくれたんだ。
そんなに辛そうな顔をしていたのかな……。
彼には私の気持ちなんて、透けて見えているのだろうか。
流斗さんって優しい人だな。
彼のことを好きになれたら、どんなにいいだろう。
でも……。
私は流斗さんから兄へと視線を移す。
加奈さんと話している兄の姿。
なんとなく、楽しそうに見えてしまう。
また勝手に傷つく。
想いを伝えることさえできないこの気持ち。
切なくて、苦しくて――。
二人から逃げるように、そっと目を伏せた。




