第45話 兄、やりすぎ説。あーん騒動と観覧車デート
店員が料理を運んできて、私たちは昼食を取りはじめた。
「うまい! ほら、唯も食べてみろよ」
オムライスをスプーンですくった兄が、自然な流れで私の口元に差し出してくる。
ちょっと待って。これって……。
「あーん」
やっぱり!
「ちょっと、こんな公衆の面前で、しかも加奈さんもいるのに」
慌てて兄を叱りつける。
「なんだよ、いいだろ別に。いつも家ではしてるだろ?」
平然と言ってのける兄に、私は口を開いたまま固まってしまった。
いつも? それは、極まれに、の間違いでしょ!
確かに、兄はときどき、からかうみたいに『あーん』をしてくる。
でも、それは家での話で、こんな人前でしたことなんてない!
しかも今は、お互い恋人が目の前にいるんだよ?
非常識にもほどがある。
私は怒りを込めて兄を睨みつける。
「へー、仲いいんだね。仲いいとは知ってたけど、ここまでとは……」
流斗さんが感心したように微笑む。
これが大人の余裕ってやつなのか。
流斗さんはやっぱり心が広いなあ。……って、感心してる場合じゃない!
私は加奈さんへと視線を送る。
すると彼女は鋭い目つきでこちらを見ていたが、目が合った途端に、ぱっと笑顔を見せた。
「ふふっ、仲いいのね。咲夜くんは本当に妹さんが可愛くて仕方ないんだから」
と、大人の余裕を見せてくる。
え? 意外と大丈夫なのかな?
私だったら、たとえ妹でも、あーんされてるとこなんて見たくない……けど。
二人とも、大人なのかなあ。
「ほら、大丈夫だろ? はい、あーん」
兄が満面の笑みでオムライスを差し出してくる。
「あ、あーん……」
流されるまま、私は兄の持つスプーンを口に運んだ。
は、恥ずかしい――でも、美味しい。
もぐもぐと味わっていると、三人の視線が突き刺さる。
兄は嬉しそうに私を見つめ、流斗さんは穏やかな笑みのまま。
加奈さんはどこかぎこちない笑顔で視線だけが鋭い。
すごく緊張する。
どうして私、こんなに緊張しながらご飯食べなきゃいけないの!
昼食を終えた私たちはカフェを出た。
人が行き交う通りで立ち止まり、次の行き先を話し合う。
「咲夜くん、私、観覧車に乗りたいな」
加奈さんが、甘えるように兄を見上げる。
「あ? ああ……そうだな」
兄の興味なさそうな返事に、加奈さんの表情がくもる。
「ねえ! お兄ちゃん、態度悪いよ。
加奈さんがお願いしてるんだから、一緒に乗ってあげなよ」
強めに言うと、兄は目を丸くした。
加奈さんも、意外そうに見つめてくる。
さきほどから、彼女に冷たい態度を取る兄のことが許せなくて、つい強めの口調になってしまった。
「な、なんだよ。急に。そんな怒らなくても……。
あ、そうだ! 四人で乗ろうぜ。楽しそうじゃん」
また、とんでもないこと。
私の怒りが一気に膨れ上がり、とうとう沸点を越えた。
「お兄ちゃん! 観覧車に四人で乗ってどうするの!?
恋人同士がふたりきりで乗るから楽しいんじゃない。
加奈さんと二人で乗って! 私は流斗さんと乗るから!」
言い切るや否や、私は流斗さんの腕に自分の腕を絡める。
そのまま彼をぐいっと引っ張っていく。
「ゆ、唯さん?」
突然腕を取られ、流斗さんは戸惑い、動揺を隠せないようだった。




