第44話 シェア飯兄妹、距離感バグってます
そのとき、ふと気配を感じて顔を上げると――
「お待たせしました」
流斗さんが戻ってきた。
「どこへ行ってたんですか?」
問いかけると、彼は穏やかな笑みを浮かべて、メニューをそっと差し出す。
「はい、どうぞ」
「わざわざありがとうございます」
メニューを開きながら、そっと微笑む。
さっき姿を消したのは、これのためだったのか。
ほんと気が利くなあ、流斗さん。
……兄と違って。
そう思いながら兄を見ると、平然と私の持つメニューを覗き込んできた。
「お! オムライスあるじゃん。唯、頼むのか?」
「まだ決めてないよ」
私と兄が一緒にメニューを眺めていると、流斗さんと加奈さんは二人でメニューを開いていた。
流斗さんは、席のことについて何も言わなかった。
きっと、兄が強引に私の隣に座ったって、ちゃんと気づいてる。
なのに、あくまで穏やかにふるまってくれて――
その大人な対応には、毎度のことながら感心しちゃう。
「じゃあ、俺オムライス頼むから、半分こしようぜ」
兄がいつもの調子で、軽く言う。
「え? う……ん。じゃあ、私はカルボナーラにしようかな」
「いいじゃん、それも半分こな」
嬉しそうに、無邪気な笑顔をこちらに向けてくる。
ふと見れば、流斗さんと加奈さんは驚いたようにこちらを見ていた。
その反応に、はたと気づく。
そうだよね……兄妹で料理シェアって、普通は恋人同士がすることだよね。
こんなの、おかしいよ。
私は兄を肘でつつき、顎で流斗さんたちを示す。
兄が私を見たあと、二人へ視線を移し、納得したように頷いた。
気づいてくれた! ……と思いきや、期待はあっさり打ち砕かれる。
「なあ、流斗たち決まった?」
空気を読まない兄の声。
ダメだ、何もわかっていない。
そんな兄に対し、流斗さんは戸惑いながらも紳士的に応じる。
「ああ、僕はカレーライスにするよ。加奈さんは?」
「え? ああ、私はホットケーキで」
ホットケーキ! 女の子っぽくて可愛いなあ。
加奈さんに視線を向けると、目が合った。
彼女は一瞬真顔になったものの、すぐに優しい笑顔に戻る。
え? 気のせい?
一瞬だけ怒ってるように見えたけど……まさか、ね。
ありもしないその考えを、慌てて打ち消した。
「じゃ、決まりな。今度は俺が注文してくるよ。流斗は待ってな」
そう言うと、兄はレジの方へと歩いていく。
さっきは流斗さんが動いたから、今度は自分が注文してくるってことか。
すごく鈍くて、わがままで、自分勝手だけど――すごく優しい。
そんなところがまた、好きなんだよなあ。
なんて、自分でも呆れるよ。
結局、さっきの意図は全然伝わっていなかったみたいだし。
遠ざかる兄の背を見つめながら、私は小さく肩を落とした。




