第42話 ドキドキ展開、その手が乱す鼓動
遊園地の中は、どこを見ても人であふれ返っていた。
前も右も左も、人、人、人。
人波をよけるだけで精いっぱいの私。
いま頼れるのは、流斗さんが握るこの手だけ。
「はぐれないように、手を離さないでくださいね」
私の不安を察してか、流斗さんが優しく微笑みながら、手をぎゅっと握りなおしてくれた。
「流斗さん……」
「ん?」
優しい声で聞き返されると、なんだか恥ずかしくてまともに顔が見られない。
「おい、おまえら、こんな道の真ん中でいちゃついてんじゃねえよ」
不機嫌そうな声が飛んできた。
いつの間にか兄がすぐ傍に立っていて、私たちの顔を交互に睨みつけてくる。
――そうだった。お兄ちゃんと加奈さんも一緒だったんだ。
すっかり忘れてた。
「ああ、ごめん。咲夜だって彼女といちゃついてくれていいですよ」
流斗さんが余裕の笑みを浮かべる。
「なっ、お、おまえなあ……」
兄が何か言い返そうとした、そのときだった。
加奈さんが兄の手をそっと握った。
「あの……私も手、繋ぎたい」
上目遣いで兄を見つめる加奈さんは、恐ろしいほど可愛かった。
この子に落ちない男なんているんだろうか。思わずそう思ってしまうほどに。
「え? ああ、うーん。前にも言ったけど、俺、手つなぐの嫌いなんだよな」
嘘……そんなわけない。
私は兄の表情を確かめるように、じっとその顔を見つめた。
何言ってんの? 私とよく手を繋いでるじゃない!
加奈さんは悲しげにうつむいてしまう。
「ちょっと、お兄ちゃん。女の子が勇気出して言ったんだから、そんなふうに断っちゃダメだよ。
加奈さん、ごめんね。兄はデリカシーがないから」
私は加奈さんの顔をのぞき込む。
潤んだ瞳が向けられ、ふいに目が合った。
泣いて……いたのかな。
「ううん。唯ちゃんが謝ることじゃないよ。ありがとう」
加奈さんが可愛いらしい笑顔を見せてくれて、ほっと胸をなでおろす。
私は兄に向き直り、ぴしっと言った。
「お兄ちゃん! 手!」
勢いに押された兄は、しぶしぶ手を差し出す。
私はその手をつかみ、加奈さんの手にそっと重ねた。
むくれた表情のまま、兄は彼女の手をぎゅっと握る。
その瞬間、加奈さんの顔がパッと華やいだ。
――ズキン。
あれ? 胸が痛い。
なんで私、こんな気持ちになってるんだろう。
自分で繋がせたくせに、それを見て傷つくなんて……。
私って本当にバカだな。
「唯さん?」
うつむく私を心配そうに流斗さんがのぞき込む。
「ごめんなさい。なんでもないんです。
……そうだ、お昼にしませんか? お腹がすいてきちゃって」
無理に元気を装った。
流斗さんは怪訝そうに見つめながらも、うなずいてくれた。
「え、ええ……いいですよ」
「どこにしようかなあ」
わざと明るい声で言って、歩き出す。
そのとき――
「唯さん、待って」
ふいに後ろから肩を抱かれ、引き寄せられた。
「さ、どこにしましょうか」
戸惑う私の腰に、流斗さんの手が自然に回される。
「……っ」
思わず体が固まる。
腰に手を回されるなんて――これこそ初体験で、どうしていいかわからない。
私の反応を、流斗さんはどこか楽しげに見つめる。
包み込むようなその手に導かれたまま、私は歩き出した。
「あ! おい、待て!」
後ろから兄の声が聞こえる。
でも、今はそれどころじゃない。
兄のことを考える余裕もないくらい、目の前の流斗さんに、意識も心も奪われていた。




