第36話 ちょっとときめく放課後
放課後、私はいつものように兄が待っているであろう校門へと向かう。
隣を見れば、ちょっとウキウキしている蘭がいた。
これ、いつものこと。
蘭は、兄と流斗さんに会えることが嬉しくてたまらないらしい。
『目の保養……だもんね』
心の中でそうつぶやき、苦笑する。
校門前には、いつも通りたくさんの生徒の姿があった。
おしゃべりしながら歩くグループに、ひとりで急ぎ足の子。
その向こうに、ひときわ目立つ二人の姿が見えた。
兄の隣に立つ流斗さんの姿が視界に飛び込んだ瞬間、胸が小さく跳ねる。
――あれ、なんだろう?
いつもと違う。
流斗さんを見ただけで、こんなにときめくなんて。
まさか、恋人になったことで意識するようになっちゃった?
「お、お待たせ」
私は兄に向かって微笑みかける。
でも、なぜか流斗さんの方へは視線を向けられない。
見たらドキドキしてしまうから。
変に思われるから向かなきゃ、と思えば思うほどできなくなる。
「おい、唯、大丈夫か?」
様子がいつもと違うことに気づいた兄が、訝しげに声をかけてくる。
「なんでもないっ。蘭、じゃあまた明日、ばいばい」
兄の視線をかわすように、私はあえて明るく蘭に声をかけた。
少しわざとらしかったかもしれないけど、気持ちを悟られたくない。
でも、肝心の蘭はというと――兄と流斗さんに視線を釘付けにしたまま。
キラキラと輝く瞳で、うっとりしていた。
「ばいばい!」
もう一度、今度はわざと大きな声で呼びかけると、蘭がハッと気づいたようにこちらを見た。
「あ、唯。うん、ばいばい。
……咲夜さん、流斗さん、さようなら」
澄まし顔でおしとやかに手を振る蘭に、心の中でツッコミを入れる。
『なんだよ、そのわざとらしい手の振り方は!』
蘭と別れた私は、兄と流斗さんに挟まれる形で通学路を歩きはじめた。
これまでは、兄に触れるたびドキドキしていたけど、今は流斗さんに触れても胸が高鳴る。
先ほどから何度も、流斗さんの腕や肩が私に触れて。そのたびに心臓が跳ねる。
どうしよう、なんだか落ち着かない……。
気を紛らわせようと、私は兄に声をかけた。
「今日の晩御飯って、何かな?」
唐突すぎる話題に、兄が怪訝そうな顔を向けた。
「は? 知らねえよ。まあ、母さんの料理は何でもうまいけどな」
「そ、そうだね」
「へえ、そうなんですか? 僕も食べたいなあ」
会話に割り込んできた流斗さんが、兄に笑いかけたあと、私にも眩しい笑顔を向ける。
その視線に耐えきれず、私はぎこちない笑みを返した。
顔、ひきつってないよね? 不安でたまらない。
変に思われないように、話題を振ってみた。
「あの、流斗さんの好きな食べ物って何ですか?」
自分で言っておいて、顔がじんわり熱くなる。
……もう、なにこの小学生みたいな質問!
「そうですね……。唯さんが作ってくれる料理なら何でも好きですよ。今度作ってほしいな」
眩しい笑顔とともに飛び出したその言葉。
『とんでもないリクエストしないでぇぇぇ!!』
内心で叫びながら、私はまた、ぎこちなく笑った。




