第34話 こっそり恋してます
私は蘭を席に座らせ、自分もその後ろの席に腰を下ろした。
何を隠そう、私たちの席は前後なのだ。
蘭が前、私が後ろ。
さっそく振り向いてきた蘭が、興奮した様子で声を弾ませる。
「ねえ、お兄さん素敵だった〜。いいなあ、唯は。毎日あの咲夜さんを拝めるなんてさ」
斜め上を見つめ、手を組み祈るような格好でうっとりする蘭。
その姿に苦笑しつつ、愛想笑いを返した。
「まあ……うん」
「あれ? なんか元気ない?」
さすが親友。
微妙な変化をすぐに察知する。
「そうだね、ちょっといろいろあって疲れちゃった」
溜息まじりに答えた。
「えっ、なにそれ! 聞かせなさいよ」
蘭が興味津々な様子でぐいっと身を乗り出してくる。
これはもう、聞き出す気満々だな。
私は観念して、昨日から今日にかけての出来事を語り始めた。
話を進めるほどに、蘭の瞳がキラキラと輝きを増していく。
「えっ! ってことは、唯って今、流斗さんと付き合ってるってこと?」
「しっ! 大きな声で言わないでよ」
私は慌てて口に指を立てる。
「流斗さんファンに聞かれたら大変なことになるんだから……」
そう、流斗さんは兄に匹敵するほどの人気者で、校内には彼の“親衛隊”と呼ばれる女子グループまで存在していた。
以前、私は親衛隊らしき女子たちに呼び止められ、忠告を受けたことがある。
流斗さんの隣にいることが多かったせいで、ふたりの仲を疑われてしまったのだ。
兄と一緒にいるとき、彼のそばにいることが多かっただけなのに――。
あのとき浴びた、強そうな女子たちの視線――あれはもう、トラウマ級だった。
ちなみにあの頃、流斗さんとはまだそういう関係じゃなかった。
だから、「兄の親友だから仲が良いだけ」って必死で説明して、どうにか納得してもらった。
しかし、今回はお試しとはいえ、本当に付き合っている。
親衛隊がこの事実を知ったら、どんな目に遭うか……考えるだけでぞっとする。
だからこそ、お試し期間中はひっそりと。
なるべく目立たないようにしておきたいのだ。
まあ、正式に付き合うようになったら、覚悟しないといけないかもだけど。
って、何考えてるの? そうなるかなんてわからないんだから!
……でも。
改めて考えると、ちょっと軽率だったのかもしれない。
私はふうっとため息をついて、視線を落とした。
「ちょっと、早まっちゃったかな」
あまり深く考えずに流れでOKしてしまったけど、これってとんでもない選択だったんじゃ。
悩んでいると、蘭が明るい声で励ましてくれた。
「いいじゃない。流斗さんから言ってきたんでしょ?
それを知れば、みんな引くって。
もしものときは私も一緒にいてあげる!」
蘭の頼もしさに、思わず笑みがこぼれた。
……うん、なんとかなるかもしれない。
蘭がそばにいてくれるなら。




