第32話 流斗さんの快進撃、兄の独占欲
「で、どういうことだ」
兄は流斗さんを睨みつけたあと、私に視線を移した。
じっと見つめてくる瞳。
気まずくなり、私は受け止めきれずに視線を逸らしてしまう。
すると、私を庇うように流斗さんが兄と私の間に立った。
「僕が説明するよ。
昨日、屋上にいたとき、咲夜の彼女がやってきただろ。加奈さんだっけ?
あのあと、唯さんがその彼女のことをすごく気にしていてね。
もしかして、唯さんも彼氏が欲しいのかなと思って、僕からお誘いしたんだ」
「はあ? なんでそうなるんだよ」
兄は納得できない様子で睨みつける。
しかし、それに動じることなく流斗さんは平然と続けた。
「ほら、僕は唯さんの変身のことも理解してるし、咲夜の親友だし。
知らない男より安心できるでしょ?
もちろん、僕も唯さんのことは前からいいなと思ってたし。
だからこの際、一度お試しで付き合ってみてはどうかなって」
兄は口を半開きにしたまま、動揺の色を隠せずにいる。
私も心の中で、ひどく驚いていた。
流斗さんが――前から私のことをいいと思っていたなんて、まったく知らなかった。
なんだか顔が熱い。
嬉しいような、恥ずかしいような……信じられない。
おそるおそる流斗さんに視線を向けると、彼は変わらぬ優しい笑みを返してくれた。
「おまえ、どこ見てんだよ」
今度は兄が私と流斗さんの間に割って入る。
兄が流斗さんをぐっと睨みつけ、また一触即発の空気になる。
そんなことはおかまいなしとばかりに、流斗さんはにこりと笑った。
「まあそんな感じで、僕の提案に唯さんが承諾してくれたというわけ。
いいよね? 咲夜だって彼女がいるんだから。
まさか、唯さんだけはダメだなんて言わないよね?」
流斗さんの笑顔は、どこかプレッシャーを感じさせるものだった。
「なっ! ……まあ、流斗なら……俺も、安心だよ……うん」
兄は目をそらしながら、小さな声で、しぶしぶといったふうに答えた。
なんとも歯切れの悪い返事だ。
その顔は、まだ納得しきれていないように見える。
不安になって流斗さんに視線を送ると、彼はウインクで応えてくれる。
思わずときめいてしまう。
わ、私ったら、お兄ちゃんのことが好きなくせに……!
流斗さんにまでときめくなんて。この浮気者!
心の内で私が必死に自制心と闘っていたとき。
流斗さんがそっと私の肩を抱き、自分の方へ引き寄せた。
ふわっといい香りが鼻をくすぐる。
「まあ、そういうことなので。これからもよろしくお願いしますね、お兄さん」
流斗さんが兄に笑顔を向けると、兄は複雑そうな表情で私たちを睨みつけた。
「お、お兄ちゃんっ」
その鋭い眼差しに、また兄が流斗さんに何か失礼なことをしでかすのではないかと、ひやひやする。
「唯! 流斗に何かされたらすぐ言えよ。俺が懲らしめてやるから」
唐突な宣言とともに、兄は私の頭を容赦なくぐしゃぐしゃに撫で回してきた。
「ちょ、ちょっと! 髪がぐちゃぐちゃになるってばっ」
慌てて兄の手を振り払おうとするけれど、力ではかなわない。
「こういうことしていいのは、俺だけだからな」
兄はわざとらしく流斗さんを一瞥しながら、まるで宣戦布告のように言い放った。




