第2話 あたたかな朝はいつもせつなく
身支度を終え、ダイニングに向かうと、テーブルにはすでに朝食が並べられていた。
トーストに目玉焼き、ベーコンとサラダ。
そして牛乳。
可愛いランチョンマットの上に、きれいに整えられている。
「あら、唯ちゃん、おはよう」
食事の準備をしていた母が、にこやかに声をかけてきた。
今は私の母でもある、兄・咲夜の母――川野すみれ。
母はとても可愛らしい人だ。
少し抜けているところもあるけれど、それがまた魅力的で。
ふわふわとしたロングのウェーブヘアが歩くたびに揺れ、見ているだけで癒やされる。
そんな母が私に気を取られていたせいか、手元のコップを倒して水をこぼしてしまった。
「あらっ!」
「お母さん、大丈夫?」
私は急いで布巾を手に取り、水を拭き取る。
「ごめんね、ありがとう」
にこっと微笑む母に、私も自然と笑顔になる。
そのやりとりを見ていた父が、優しく声をかけてきた。
「唯、おはよう」
穏やかな笑みを浮かべるのは、私の父親・川野雅人。
温厚で優しく、ちょっぴりお人好しだけど頼りになる。
私はそんな父が大好きだった。
「おはよう、お父さん。あ、寝癖ついてるよ」
くすっと笑いながら、父の髪に手を伸ばす。
「ああ、ありがとう」
「おまえも寝癖ついてるぞ」
いつのまにか背後に来ていた兄が、ぼそっと言った。
「えっ!? 嘘、さっき直したのに!」
慌てて髪を整えると、兄はニヤリと笑う。
「嘘だよ」
「なっ……!」
睨みつけると、兄は知らん顔でさっさと席に着いた。
もう、いつもこうだ。
私をからかって、楽しんでいるんだから。
ぷくっと頬を膨らませ、黙って兄の隣へ腰を下ろす。
はあ……と息をつき、ふと目をやる。
新聞を広げたまま、兄は黙って記事に目を通していた。
その真剣な横顔が妙に格好よく見えて、つい見惚れてしまった。
と、その視線がふいにこちらへ向く。
目が合って、私はあわてて目をそらす。
恥ずかしさをごまかすように、手にしていた牛乳を一気に飲み干した。
「唯、もう少しおしとやかに飲めよ」
兄が余計なひと言を放つ。
「うるさいな。いいでしょ、別に」
「そうだな、元気な証拠だよ」
「そうねえ、唯ちゃんは何をしてても可愛いし」
兄とは違って、父と母は私に甘い。
ご機嫌取りではなく、本心からそう言ってくれているのがわかるから、素直に嬉しかった。
「さ、食べましょう」
母の掛け声で、みんなで声をそろえる。
「いただきます」
こうして、家族の楽しい朝食の時間が始まった。




