第25話 屋上、私をはさんで火花散る
休み時間。
「よっ!」
兄が飛びきりの笑顔で教室に現れる。
私は呆れつつも、苦笑いを返した。
優の姿のままの私を心配してか、兄は休み時間のたびに教室まで様子を見に来る。
十分しかない短い休憩時間なのに、毎回訪ねてくるのは相当大変なはず。
「咲夜、そんなに毎回来なくても大丈夫だよ」
さりげなく断ってみるけれど、兄はまったく気にしていない。
「何言ってんだ。俺はおまえに会いたいから来てんの。いいだろ、別に」
うん、まあ、そうなんだけど……。
私は周囲の目を気にしながら、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
案の定、クラスでは兄のことが噂になり始めていた。
もしかして兄はゲイなのではないか、と。
唯のときにも教室まで来ていたけれど、それは妹だからまあ許容されていた。
けれど、優は従弟で、しかも男。
周囲の視線が妙に冷たく感じられる。
まあ、ある一定の女生徒からはなぜか喜ばれているみたいだけど。
兄はその噂を知っているのかいないのか。
たとえ知ったとしても、きっと気にしないだろうけど。
そういうことには動じないタイプだ。
けれど私は、兄がそんなふうに誤解されるのは嫌だった。
しばらくすると、時計をちらりと見た兄が名残惜しそうに立ちあがった。
「じゃあ、もう帰るな。また次の休み時間に来るから」
一方的にそう言い残し、さっさと教室を後にする。
その後ろ姿をそっと見守りながら、私は小さく息をついた。
まあ、本人が気にしていないのだから、私が気にしてもしかたないか。
そう思い直し、これ以上噂が広まらないことを祈った。
そして、お昼休み。
またも教室に迎えにきた兄と一緒に、私は屋上へ向かった。
途中で蘭とすれ違ったが、声をかけてこなかった。
けれど、何か言いたげに、じっとこちらを見ていた気がする。
視線が刺さるように感じたけれど……あれはいったい。
まあ、気にしないことにしよう。
屋上に着くと、そこにはすでに流斗さんが待っていた。
「やあ、待ってましたよ」
眩しい笑顔で迎えてくれる流斗さん。
「ちっ……」
またも兄が舌打ちする。
「もう、お兄ちゃん! 失礼だよ。朝も流斗さんに舌打ちしてたよね?」
兄の態度が気に食わなくて、思わず強い口調になってしまった。
「別に……。いいだろ、どうせおまえにはわかんねえよ」
不機嫌そうに言い放ち、兄はベンチにドスンと腰を下ろした。
なにそれ、態度悪いなあ。
私が兄を訝しげに見ていると、流斗さんが私の隣にそっと立ち、顔を近づけ耳元でささやいた。
「どうやら、私は邪魔者みたいですね」
「へ?」
私は驚いて流斗さんを見つめる。
なんで? 流斗さんが邪魔者?
私が戸惑っていると、流斗さんはくすくすと楽しげに笑った。
そして、何事もなかったかのように兄の隣へ歩いていき――ふたりの間に、少し間を空けて腰を下ろす。
……えっと、そこって、私が座る場所?
ぽっかり空いたその隙間をじっと見つめる。
よくはわからないけれど、ほかに選択肢もない。だって、そこしか空いていないのだから。
私は少し躊躇いながら、おずおずとふたりの間に腰を下ろした。




