第21話 オムライスと、ほろ苦さ
その夜――。
今日は、父と母がディナーに出掛ける日だった。
月に一度、両親がふたりきりで食事を楽しむために決めた、わが家のルール。
それは結婚当初から続いている習慣だった。
「唯ちゃん、咲夜、ふたりで仲良くお留守番お願いね~」
母が父の腕にからみ、寄り添いながら頬を染める。
「二人とも、行ってきます」
父もまんざらでもない様子で、母に寄り添い照れ笑いを浮かべていた。
ほんとうに、いったいいつまで恋人気分が抜けないのやら。
でもまあ、仲がいいのはいいことだよね。
「行ってらっしゃい」
私と兄は笑顔でふたりを見送った。
両親が出かけると、家には私と兄のふたりだけ。
毎月のことなのに、この時間だけはどうしても胸が高鳴ってしまう。
兄妹なんだから、そんなふうに気にする必要はないはずだよね。
でも、何度言い聞かせても、心が勝手に反応してしまうのだ。
ちらりと兄を盗み見る。
「さてと、夕飯は何にしようか」
兄がこちらに顔を向けた瞬間、私は慌てて視線を逸らした。
「え? べ、別になんでもいいよ」
平静を装って答えるが、心臓は跳ねるように脈打っている。
「じゃあ、オムライスでも作るか。唯、好きだもんな」
優しく微笑んで、兄は私の頭を軽く撫でてきた。
いつもこうやって子ども扱いするんだから……。
ほんのり反発心を抱きながらも、私は嬉しい気持ちを隠せないでいた。
――頭を撫でられたこともだけど。
兄の料理は本当に美味しい。それはもうほっぺが落ちるほど。
兄は手際よくエプロンを身につけ、キッチンへ向かう。
その何気ない後ろ姿にも、つい見惚れてしまった。
いけない、いけない。
私は心の中で呪文のように唱え、兄から視線を外す。
いったい、何度この葛藤を繰り返してきたんだろう。
仕草、表情、言葉、すべてに魅了される。
兄のそれらに触れるたび、私の想いは募るばかり――。
それでも伝えることはできず、胸の内で想いは膨らみ続ける。
ああ、神様はなんて意地悪なんだろう。
どうして私たちを兄妹にしたの?
そんな私の気持ちなど知るよしもなく、兄は楽しげに料理を進めていた。
「もうすぐできるぞ〜。まってろよ」
鼻歌まじりにフライパンを振る兄。
呑気なその姿に、つい心の中で毒づきながらも、私はやっぱり兄から目を離せないでいた。




