第20話 そっと、手をつなぐ午後
そのあと、父が用意してくれていた女子用の制服に着替えた。
こんなことがあろうかと思って準備していたらしい。
用意周到な父に感謝だ。
理事長室を出て、兄と二人で校門をくぐる。
昼下がりの空は、どこまでも青く澄んでいて、太陽もまだ高い位置にある。
授業中だからだろうか、校舎の窓からは教室の気配が静かに漂っていた。
ふと隣を歩く兄に目をやる。
付き添ってくれるのはありがたいけれど、
兄を巻き込んでしまった気がして……なんだか申し訳なくなる。
そんな私を気づかってか、兄が明るく話しかけてきた。
「しかし、何がきっかけなんだろうなあ。今日はびっくりしたよな。急に戻るんだもんな。
しかも戻るときはけっこうしんどいんだろ?
まあ、あんま気にすんなよ。そのうちなんとかなるって」
兄がニカッと笑う。
あっけらかんとした明るい笑顔。
こういうところ、本当に羨ましい。
兄はどちらかといえばポジティブ。私は……ネガティブな方。
でも――そういう兄の人柄に、何度も救われてきた。
一緒にいると元気をもらえるし、居心地がよかった。
考え込むことの多い私にとって、兄の明るさはいつもそっと寄り添い、支えてくれる。
ふと兄が空を仰ぎ、何かを思いついたように声をあげた。
「なあ、公園に行ってみようぜ? 何か手がかりがあるかもしれないし」
確かに……行ってみる価値はあるかもしれない。
まさか、まだあそこにクレープ屋がいるとは思えないけど。
何か手がかりが掴めるかもしれないもんね。
「うん、行ってみよう」
私が笑顔で答えると、兄も嬉しそうに笑った。
公園に着くと、案の定クレープ屋の姿はなかった。
「やっぱりいないよな。他にクレープ屋のことを知ってる人、いないかな」
兄がきょろきょろとあたりを見まわす。
平日の昼下がり、広場はひっそりとしていて、ベンチで日向ぼっこをしているお年寄りと、犬の散歩をしている近所のおばさんくらいしかいない。
一応声をかけた兄だったが、しょんぼりしながら戻ってきた。
「ダメだ。知らないってさ。それどころか、昔話を延々と聞かされる羽目になった」
兄はがっくりと肩を落とす。
「ふふっ、もういいよ。たぶん無理だと思ってたし。
でも、私のために一生懸命になってくれるだけで嬉しい。帰ろ?」
私が手を差し出すと、兄は驚いたように私を見つめた。
「なに?」
そう聞くと、兄は小さく首を振る。
「ううん。なんでもない。さ、帰ろうぜ」
兄は私の手をぎゅっと握り、歩き出す。
その手の温もりを感じながら、私もそっと握り返した。




