第19話 守ってくれる人が、ここにいる
しばしの沈黙のあと、父がふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「まあ、今考えても答えは出ないだろうし。これからの経過を見守りながら探っていこう。
きっと法則が見つかれば対策もできるよ」
はは、また能天気な……と、あきれる。
でも、その父の笑顔に、不安が和らいでいくのを感じた。
大丈夫、という気持ちにさせてくれるから不思議だ。
まだまだわからないことだらけで、不安は尽きないけれど――。
それでも今は、皆を信じてみよう。信じて、任せてみよう。
そうすれば道は開ける。……そんな気がするから。
私は父に、そっと微笑みかけた。
「うん、わかった。ありがとう」
すると、横から強い視線を感じた。
そっと振り向くと、真剣な瞳がまっすぐに私を射抜いた。
「俺が……守るから」
力強く告げた兄が、そっと私の肩を抱き寄せる。
トクン……胸の高鳴りと共に、奥がじんわりと熱くなった。
まだどこかに残っていた不安さえ、少しずつ溶けていくように感じた。
そんなひとときも束の間、父の声が空気を変える。
「それじゃあ唯。君が学校にいると辻褄が合わないから、今日はもう家に帰りなさい」
その言葉に、はっとする。
そうだ、私は今日、体調不良で休んでいることになっていたんだ。
「うん、わかった。でも、優のことはどうするの?」
「優は今日が初日だったんだ。疲れが出たことにして早退ってことにしておくよ。
これからのことも考えて、病弱という設定にしておいた方が都合が良さそうだな」
にこやかに話しながら皆を欺く算段をする父に、少々恐ろしさを覚えた。
やはり理事長まで登り詰めた男は、とぼけたふうに見えてもやり手なのかもしれない。
「なら、俺も帰る」
兄の突然の申し出に、私も父も目を見開く。
「だって、唯を一人で帰らせるなんて心配だし、いいだろ?」
兄が父へ視線を向ける。
「うーん……そうだね。咲夜くんは成績優秀だから問題ないよ」
父がにっこりと頷いた。
思わず、え!?と声が出そうになる。
い、いいんだ……さすがお兄ちゃん。
兄はホッとしたように息をついて、私の方へ目を向ける。
「ありがと。……よかったな、唯」
私は小さく笑ってみせたけれど、胸の奥にはどうしようもない不安が広がっていた。
昨日優になったばかりなのに、今日はもう唯に戻っている。
変身の法則もわからず、次はいつどうなるのかすら見えない。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
不安を少しでも外に逃がすように。
すると、兄がそっと私の頭を撫でてくれた。
「大丈夫。俺がいつも側にいるから」
その笑顔が、眩しい……。
その言葉に、胸がときめく――。
父の優しい眼差しに、胸がじんわりとあたたかくなる。
二人の愛に包まれて、私の心は春のようにぽかぽかとあたたかくなるのだった。




