第146話 止まらないキス、ココアの香り
今日は、父と母がデートで家にいない。
前は月に一度くらいだったふたりのデートが、最近なぜか頻繁に行われるようになった。
もしかして――私たちに気を遣っているのかもしれない。
そんな妙な配慮しなくてもいいのに。
っていうか、確実に母の案だな。父は母に押し切られているのだろう。
私はため息をついた。
「なんだよ、ため息なんかついて」
夕食を終え、ソファーでくつろいでいると、兄がマグカップをふたつ持って現れた。
私のすぐ隣に腰を下ろすと、片方のカップを差し出してきた。
「ほい、ココア」
あたたかな湯気が立ちのぼるココアを見つめ、自然と頬が緩んだ。
「ありがとう」
カップを両手で包み、ゆっくりとココアを口に運ぶ。
すると、私をじっと見つめる兄の視線を感じた。
痛い……というか熱い?
気になってしまい、ココアどころじゃない。
飲むのを止め、私は兄を睨みつける。
「ねえ、そんなにじっと見つめないでよ。恥ずかしいから」
そう言うと、兄がさらっととんでもないことを言った。
「なあ、俺もおまえのココア、飲みたい」
「え!?」
にやりと笑った兄が、ためらうことなく私に口づけた。
「んっ……!」
唇が触れた瞬間、鼓動が跳ねる。
だけどそれは、軽いものでは終わらない。
深く、熱を帯びたものに変わっていく――。
「ちょ、ちょっと!」
必死で押し返そうとするけれど、兄の腕はびくともしない。
近すぎる吐息に、心臓が暴れはじめる。
やっとの思いで距離を取ると、兄は不機嫌そうに眉をひそめる。
「なんだよ、せっかく堪能してたのに」
「あ、あのねえ……!」
「な、いいだろ?」
低く囁いた声と同時に、視界がふっと揺れる。
次の瞬間、私はソファーに押し倒されていた。
上から覆いかぶさるようにして見下ろしてくるその熱い眼差し――
緊張はピークに達し、私は身を強張らせた。
必死に腕を伸ばして抵抗しようとするが、兄の手に捕まってしまう。
そのまま動きを封じられ、ソファに身を預けるしかなくなる。
「ちょ、待って! 何がいいのよ。お父さんとの約束は!?」
「は? そんな約束、あったっけ?」
とぼけた顔ではぐらかそうとする兄に、ますます慌てる。
「だ、だめだってば、私、まだ……」
「ダメ。もう待てない」
兄の顔がゆっくりと近づいてくる。
そして、唇がそっと重なった。
さっきよりも、もっと深く、もっと熱く。
息がゆっくりと乱れていく。
その唇は、やがてそっと首筋へと下りてきて――
「あっ……」
思わず小さな声が漏れた。




