第142話 天然家族、清く正しい交際を
食事が始まって少し経ったころ、母がぽつりとつぶやいた。
「あーあ、私、優ちゃんのことも可愛くて気に入ってたんだけど……。少し残念ねえ」
私は目を丸くして母を見る。
「な、何言ってんの?」
また出たよ、母の天然。
肩の力が抜ける。
ほんとにもう。
どれだけあの変身騒動に振り回されたと思ってるの、わかってる?
「そうだねえ、優くんも可愛かった。
でも、やっぱり唯は唯じゃなきゃ。本当に元に戻ってよかった」
父がにこやかに笑いかけてくれる。
その言葉が胸にすっと染み込んできて、思わず顔がゆるんだ。
――やっぱりお父さんは、優しい。
照れくさくて、でも素直に嬉しかった。
「そういえば、優、結構人気あったんだぜ。
女子たちが騒いでたな。どこぞのアイドルみたいに可愛いって」
兄が思い出したように言うと、私はぽかんと兄を見つめた。
そ、そんなことがあったの? 意外……でもないか。
兄がモテるなら、私もそこそこイケてたのかも?
――意外と似てたりするのかな。
「ほら~、やっぱり。男の子でも唯ちゃんモテてたのよ~。
イケメン兄弟として、名を馳せてたんじゃない?」
母が夢心地で宙を見上げ、うっとりと手を合わせる。
メルヘンチックな母にあきれて、何も言えない。
本当にもう……この人は。
そう思ったとき、母が何かを思いついたようにパチンと手を打った。
「あ、でもそれだと困るわよねえ、ね、咲夜」
「あ? ああ、まあな……」
兄が少し照れたように私をちらっと横目で見た。
その仕草に、ドキッとする。
そ、それって……。
「おっっほん!」
先ほどより明らかに大きな咳払い。
「一つ言っておくけれど……」
父が口を開いた。
「別に、咲夜くんと唯の交際を認めないわけじゃないよ。
大好きな二人が一緒になってくれて、嬉しい。嬉しいんだけど……」
言いかけて、父は難しい顔で言葉を止めた。
母はくすくすと小さく笑っている。
「あれだ、その……まだいろいろ早いんじゃないかと思ってだな。
二人が結婚するまでは、その、清い交際を……お願いしたい」
顔を真っ赤にして、父がぼそぼそと語る。
ぽかんと固まる私。
困ったように頭をかく兄。
その様子を、母はニコニコと楽しそうに眺めていた。
「あっ、もうこんな時間! 唯ちゃん、咲夜、急いで」
母の声に時計を見ると、登校時間が迫っていた。
私と兄は急いで朝食をたいらげ、鞄を手に玄関へと向かう。
『いってきまーす!』
複雑そうな顔の父と、にこにこと笑う母に見送られながら、私たちは家を後にした。




