第13話 君がくれた勇気
気になって顔を覗き込むと――
「おまえ……他の男には、こんなこと絶対するなよ」
兄は視線を逸らしながら、ぼそっと呟いた。
少し照れているようにも見える。
どうして?
私の頭上に、はてなマークが浮かんだ。
「ははっ。咲夜くんは本当に唯のことを大切に想ってくれてるんだね。ありがとう」
父はなぜかにこにこ微笑みながら、うんうんと頷いている。
「まあ……妹だし」
兄のその一言が胸に突き刺さる。
――い、痛い……。
その言葉を聞くたび、現実を突きつけられる気がして辛かった。
そのとき、コンコンと扉をノックする音が響いた。
「はい」
父が答えると、扉が静かに開く。
「失礼します。南さんを迎えに来ました」
現れたのは、隣のクラスを受け持つ神崎先生だった。
優しそうな雰囲気の若い女性教師で、生徒たちとも友達のように接している。
そのため、みんなからとても人気があり、親しまれていた。
「あなたが南優さんね。よろしく。私はあなたの担任の神崎です」
先生がにこやかに手を差し出してくる。
「あ、よろしくお願いします」
私も少し緊張しながら手を差し出し、握手を交わした。
「それじゃあ、行きましょうか。クラスへ案内するわね」
先生は父に一礼し、静かに部屋を出ていった。
私は振り返って父と兄を見つめる。
二人は黙って深く頷いてくれた。
――大丈夫。安心して行っておいで。
そんな声が聞こえてきそうで、胸がじんわりと温かくなる。
私は覚悟を決め、理事長室を後にした。
神崎先生のあとを歩いていくうちに、緊張がじわじわと増してくる。
はあ……心臓がバクバクする。
どうか、何事もなく一日が終わりますように。
そして、正体がバレませんように!
ふと気づけば、自分のクラスの前を通り過ぎていた。
なんだか、不思議な感覚。
そうか、唯と優はクラスが違うんだ。
同じクラスだったら、交代でいることにすぐ気づかれてしまう。
クラスを分けるなんて……お父さん、なかなかの策士だな。
やるじゃん!
そんなことを考えているうちに、先生が立ち止まった。
「南さん、ここがあなたのクラスよ。皆に紹介するから、どうぞ入って」
先生がドアを開け、教室の中へ入っていく。
よし、行こう!
私は心の中で自分にエールを送った。
大丈夫、きっとうまくいく。
そのとき、兄の顔がふと脳裏に浮かんだ。
――私には、大切な人たちがついている。




