第131話 おめでとう、そして修羅場へ
リビングには、すでに皆がそろっていて、笑い声が部屋中に広がっていた。
兄と父が楽しげに笑い合い、その合間に蘭が「うんうん」と相槌を打ちながら手を叩いてはしゃいでいる。
流斗さんも柔らかな笑みを浮かべ、輪に加わっていた。
キッチンでは、母が料理の手を止めることなく、ちらりとリビングに視線を向けて目を細める。
そんな賑やかな空気の中に足を踏み入れると、蘭が私に気づいた。
ぱっと目を輝かせ、小走りで駆け寄ってくる。
「唯、メリークリスマス! はい、プレゼント!」
差し出された赤い包みを、私は慌てて受け取る。
「え、ありがとう。でも私、何も用意してないよ……」
「いいの、気にしないで。お祝いしたかっただけだから」
にやにやと笑う蘭の顔を見て、ふと気になる。
先ほどの流斗さんの様子といい、蘭のこの態度といい……もしかして、二人とも――。
「ね、蘭……もしかして」
言い終える前に、蘭が堪えきれないように抱きついてきた。
「やっぱり! 咲夜さんとうまくいったんでしょ? おめでとう!」
「えっ、なんでわかるの?」
思わず声が上ずる。
まさか気づかれてたなんて……私、そんなにわかりやすかった?
「そんなの、あんたの顔見ればすぐわかるって。……よかったね」
少し涙ぐんだ目で微笑む蘭に、私は照れながらも笑顔で「ありがとう」と返した。
そうか……さっきから感じていた妙な空気、
二人とも私とお兄ちゃんのことに気づいていたんだ。
私は視線を流斗さんの方へ向けた。
その気配を察したのか、彼が静かに歩み寄ってくる。
蘭は空気を読んだように、私からそっと身を引いた。
やがて目の前に立った流斗さんが、潤んだ瞳で優しく微笑む。
「唯さん……おめでとう」
その声はあたたかくて、少し切なかった。
胸の奥がじんとする。私は流斗さんに、ひどいことをしてしまったから――。
「短い間でしたけど、唯さんの彼氏になれて、本当に嬉しかったです」
差し出された手を見つめ、少し戸惑う。
けれど、しっかりと握りしめた。
ぎゅっと力を込め、ありったけの「ありがとう」と「ごめんなさい」を伝える。
「流斗さん……いろいろ、本当にありがとうございました。
そして、こんな形になってしまって、ごめんなさい。
図々しいかもしれませんが、これからも仲良くしていただけたら嬉しいです」
私の言葉に、流斗さんは静かに頷いて微笑んだ。
その時だった。
「あれ? もしかして流斗くん、唯と付き合ってたの?」
父の唐突な声に、場の空気が一瞬凍る。
流斗さんの目がぱちくりと瞬いた。
「え、ええ……まあ、少しだけ」
その返事を聞いた瞬間、父がくるっと私の方を振り向き、勢いよく詰め寄ってくる。
「唯、聞いてないぞ?」
なんだか……顔は笑ってるのに、声が怖いんですけど。
そういえば、彼氏がいるとは言ったけど、誰かまでは話してなかった。
「お父さん、落ち着いて。これには、深く長〜い事情が……」
「どういうことか、聞かせてもらおう」
ずずいと迫ってくる父。
めちゃくちゃ怒っているらしいのに、その顔は満面の笑み。
ほんと、怖いんだけど。
「私も聞きたいわ〜」
父の横から、母が目を輝かせながらひょっこり顔を出す。
興味津々というより、完全にノリノリの顔だった。
私は頭を抱えた。
うわ……これ完全にやっかいな流れじゃん。
まさか今になって、こんな形で説明することになるとは――。
気分が一気に重たく沈んでいく。
こうして、私は両親にこれまでの経緯を一から話す羽目になったのだった。
……よりによって、クリスマスに何してるんだろ、私。




