第125話 舞い降りた雪と……告白
放課後。
席を立って顔を上げると、教室の入り口に兄の姿が見えた。
「唯、帰ろうぜ」
入り口のドアに片手をかけ、軽く私に手を振る兄。
教室がざわめきはじめた。
「え、あれって咲夜さん……?」
「今日もイケメン……」
ちらちらと注がれる視線の中、私は兄のもとへ駆けていく。
「どうしたの? 教室まで来るなんて珍しいじゃん」
最近は教室まで迎えに来ることなんてほとんどなかったから、周囲がざわつくのも無理はない。
もともと目立つ人だし、なおさらだ。
私がじっと見つめると、兄は照れくさそうに笑った。
「どうしても唯のこと捕まえたくてさ。
ちょっと寄りたいとこがある。一緒に来てくれ」
有無を言わせない雰囲気に、私は少し戸惑いながらも、小さく頷いた。
――そして、連れてこられたのは商店街の大通り。
アーチ状のイルミネーションがきらめく中、通りの中央には、毎年恒例の大きなクリスマスツリーが飾られていた。
キラキラと輝く電飾、赤いリボン、金色のボール、雪の結晶型の飾り。
そのすべてがツリーを華やかに彩っている。
てっぺんの金色の星が、薄暮の空を背にきらりと光っていた。
昔から、兄と一緒にこのツリーを見に来るのが恒例になっている。
「綺麗だね」
「……ああ」
並んでツリーを見上げた。
周りでは子どもたちのはしゃぐ声が響き、大人たちも足を止める。
「――唯」
「ん?」
何気なく顔を向けた瞬間、息が詰まった。
兄のまっすぐな瞳に射抜かれ、視線を逸らせない。
言葉もなく、ただ見つめ合う。
すると――空から白い小さなものがふわりと舞い降りてきた。
雪だ。
思わず手を差し出すと、掌にひとひらが落ちた。
「ホワイトクリスマス……」
つい、頬がゆるんだ。
「唯、先に謝らせてくれ。
最近、俺……態度悪かったよな。ごめん」
兄がいきなり頭を下げてきた。
「え!? な、何、急に……やめてよ!」
あわてて声を上げる。どうしていいかわからない。
「俺、ずっと逃げてたんだ。唯からも、親父のことからも」
顔を上げた兄の瞳は、悔しさと悲しみが、複雑に揺れていた。
「唯のこと、好きなくせに。
もし想いを伝えて拒絶されたらって思うと、怖くてさ。
親父のことだって……負い目があって。
そのことで嫌われたらって、不安で仕方なかった。
でも結局、自分が傷つきたくなかっただけなんだよな。
本当の気持ちなんて、聞いてみなきゃわからないのに……。
俺、だっせえ。勇気が出なかった」
自嘲ぎみに笑う兄に、私は思いきり首を振った。
私だって同じだ。怖かった。想いを伝えて、拒絶されることが。
「流斗のことだって……口では応援してるふりしてたけど、内心は気が気じゃなかった。
嫉妬ばっかりで、落ち着かなくて。
なのに“唯の幸せのため”なんて言い訳して、あきらめようとしてたんだ。
……ほんと、バカだよな、俺」
兄はふうっとため息をつき、空を仰いだ。
舞い落ちる雪をじっと見つめ、ゆっくりと目を細める。
「流斗に言われて、はっとしたんだ。
俺、自分のことばっかり守ろうとしてたんだなって」
そして――兄がゆっくりと顔をこちらへ向ける。
その瞳は、私の奥に触れるみたいに、静かに重なってきた。




