第119話 仲直りのチャンス
「それじゃあ、僕たちは行ってくるよ。
唯と咲夜くんも、二人で楽しんできなさい。また連絡するから」
そう言って父が手を振る。
母もにこにこしながら父に寄り添い、背を向けた。
「え!? ちょ、ちょっと……!」
私は慌てて声をかけたが、届いていない。
二人はそのまま、あっという間に人混みの中へと消えていった。
「……行っちまったな」
兄がぽつりとつぶやいた。
私はそっと、その横顔に視線を送る。
ふたりきりなんて、ほんと久しぶり。
お兄ちゃん、どう思ってるんだろう。
なんともいえない気まずさだけが、じわじわと広がっていく。
二人とも黙り込み、
周囲の人たちの声がやけに大きく聞こえた。
「あの二人の邪魔しちゃ悪いし、俺たちも二人で楽しむか」
兄がふっと笑ってそう言った。
久しぶりに見る兄の柔らかな笑顔。
「う、うん!」
私は嬉しくて、力強く頷いた。
こうして――
両親の計らいによって、私は兄と仲直りする最大のチャンスを与えられたのだった。
……そこまではよかったんだけど。
ちらりと兄を盗み見る。
ふたりきりの空間が久しぶり過ぎて、緊張する。
でも、なんだか、今日の兄はいつもより話しやすい気がする。
それに、どこか雰囲気まで柔らかく感じる。
もしかして……お兄ちゃんも、ほんとは仲直りしたいって思ってくれてるのかな?
って、別に仲たがいしたわけじゃないけどね。
そんな淡い期待を胸に、私は兄の少し後ろを歩いていた。
「ここ、入るか? おまえ好きだろ?」
兄が立ち止まった先には、私のお気に入りのブランドの服屋さん。
「えっ、いいの?」
「ああ、もちろん。おまえに似合う服、選んでやるよ」
優しい笑みと嬉しい言葉――そんなの、ときめかないわけがない。
「うんっ!」
私は急いで兄のもとへと駆け寄る。
何これ、今日の展開。めちゃくちゃいい感じなんだけど。
嬉しいよ〜。




