第11話 通学路には秘密がいっぱい
兄と私は肩を並べ、通い慣れた通学路を歩いていた。
ただ一つ違うのは、今の私は“男の子”だということ。
「何、緊張してんの?」
ぎこちない表情をしていた私に、兄がぐっと顔を近づけてきた。
「わあっ! もう、急に近づかないでって、いつも言ってるでしょ!」
思わず声を上げると、兄は口をとがらせて私から離れる。
ほんと無邪気なんだから。こっちの気持ちも知らないで。
「おまえさあ、口調が女みたいだぞ。もっと男らしくしろよ」
兄に言われて、はっとした。
そっか、今の私は男だった。気をつけなくちゃ。
「そ、そうかなあ。そんなことないんじゃないかな?」
自分なりに考えた“男らしい口調”を真似てみる。
すると、兄が声を上げて笑った。
「唯――じゃなかった、優。おまえ、面白いな!」
けらけらと笑う兄に、私はぷくっと頬を膨らませる。
「おにい、じゃなかった……咲夜が言ったんでしょうが!」
危ない。つい「お兄ちゃん」と呼びそうになった。
気をつけないと。
それにしても「咲夜」って呼ぶの、なんだか照れくさい。
……ほんとは、ちょっと嬉しいけど。
「おはよう、咲夜。……と、誰?」
ふいに風が揺れ、視界の端に人影が現れた。
そこに立っていたのは、兄の親友・流斗さんだった。
じっと私の顔を見つめ、不思議そうに首をかしげている。
「あ、えーと……」
そうか、もう合流地点に着いてたんだ。
胸が一気に騒ぎ出し、注がれる視線にどう返せばいいのか分からない。
私はまごついた。
すると兄が、いつもの調子で助け舟を出してくれる。
「流斗、おはよう。こいつは俺の従弟なんだ」
そうだった。昨日の家族会議でそう決めたんだ。
「へえ、こんな可愛い従弟がいたんだ」
流斗さんが私を見つめながら、すっと距離を詰めてくる。
「おっと、こいつ人見知りだから。あんまり近づくなよ」
慌てて割って入った兄が、私を背中にかばった。
「ね、その子、唯さんに似てるね?」
にこやかに言いながら、流斗さんは兄の肩越しに私を観察してくる。
「あ……ああ、そうだな。唯とも従弟だからなあ。似てるかもなあ」
兄はごまかすように笑い、私の肩をぐっと引き寄せた。
「可愛いだろ? こいつ男なのに女みたいな顔してるんだよな。だから余計に唯に似てるのかもな」
フォローのつもりなのに、かえって怪しく聞こえる。
流斗さんがさらに顔を寄せてきた。
整った顔が目の前に迫り、思わず息が止まる。
「うん、ほんと唯さんそっくり……可愛いね」
胸が大きく跳ね、顔が熱くなる。
流斗さんはよく私を褒めてくれる。嬉しいけれど、やっぱり慣れない。
「おい、男くどいてどうすんだよ?」
兄は私を守るように、さっと引き離した。
「こいつ、早く連れてかなきゃいけないから、先行くぞ」
そう言うと、私の手を取って走り出す。
少し強引で、でもあたたかなその感触に、胸がふわっと高鳴った。
振り返ると、流斗さんが穏やかな笑顔で手を振っていた。
さっきまでの鋭い視線は消え、そこにはいつもの優しい彼がいた。




